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企業においては、労働条件や労働環境を整備するため不可欠な役割を果たす就業規則。
では、就業規則の効力発生時期、周知方法は知っていますか?
今回は就業規則の効力を発揮させるために重要なことを説明いたします。
就業規則の効力発生時期
就業規則の効力が発生するためには、以下の条件が必要です。
絶対的必要記載事項の規定: 例外なく就業規則に記載しなければならない「労働時間に関する内容」「賃金に関する内容」「退職・解雇に関する内容」の事を指します。
詳しくはこちら→「絶対的必要記載事項 」だけじゃダメなの??
従業員への周知: 就業規則の効力は、作成した時点や届出た時点ではなく、従業員に対して公平かつ明確に規則が周知された日から発生します。
したがって、就業規則の効力は合理的な労働条件を定め、かつ従業員に適切に周知された日から発生します。
労働条件に関する優先順位
労働条件に関する法的効力を有するものには、法令、労働協約、就業規則、労働契約があり、それぞれ優先順位が存在します。
法令 > 労働協約 > 就業規則 > 労働契約
法令が最上位にあり、それに反する内容は無効とされます。就業規則は法令に基づいて作成され、個別契約よりも優先されるため、企業は法的基準を遵守する必要があります。
就業規則の周知方法
効力発生の要件の一環として、就業規則は従業員に適切に周知される必要があります。これには以下のポイントが関わります。
明確な記載事項: 就業規則には「絶対的必要記載事項」が含まれ、これが従業員に対して明確に伝えられるようにする必要があります。
公平かつ明確な手段での周知:就業規則は公平かつ明確な手段で従業員に周知されるべきであり、例えば社内通知、会議、電子メール、社内ポータルなどが利用されます
従業員代表の意見聴取: 労働者代表の意見も考慮されるべきですが、これは効力発生の要件ではなく、手続き要件であることに留意が必要です。
詳しくはこちら→就業規則の意見書?それって私たちに関係あるの事?【社会保険労務士監修】
契約規律効の重要性
就業規則には、「契約規律効」と呼ばれる効力があります。これは、個別の労働契約を締結していない場合でも、就業規則で定めた労働条件が適用されるというものです。労働者と使用者が就業規則の内容と異なる労働条件に合意していない限り、変更後の就業規則が労働契約の内容になります。ただし、この効力を発生させるには就業規則が合理的であり、かつ労働者に実質的に周知されている必要があります。
就業規則の作成要件
就業規則が労働者に対して効力を有するためには、以下の要件が満たされている必要があります。
絶対的必要記載事項の記載: 就業規則には必ず法律で定められた事項が記載されている必要があります。
相対的記載事項の記載: 特定の内容を定める場合には、それに応じて相対的記載事項が記載されている必要があります。
労働組合または労働者代表の意見聴取: 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその意見を、組合がない場合には労働者の過半数を代表する者の意見を聴いていること。
労働者への周知: 作成した就業規則を労働者に周知していること。
就業規則の作成義務
「常時10人以上の労働者を使用する使用者」は、必ず就業規則を作成する義務が課されています。ただし、これは事業場単位での要件であり、会社全体で10人以上の労働者がいても、事業場ごとに見て10人未満であれば、その事業場においては就業規則を作成する必要はありません。
以上の要件を遵守することで、企業は法的な基準を満たし、労働者との円滑な関係を構築できるでしょう。
就業規則の効力が問われた判例
関西電力事件(最一小判昭58・9・8労判415号29頁)
労働者が会社および労組を誹謗中傷するビラを配布し、その行為に対する譴責処分の無効確認が求められた事例。
主な論点として、就業規則において「特に不都合な行為」に該当するかどうかが検証されています。被控訴人が待遇の不満や疑問を抱いていたことが述べられ、その不満に対する適切な対応がなされなかったことが指摘されています。ただし、本件ビラ配布が悪質でなくとも「特に不都合な行為」に該当する可能性があるとされています。
また、懲戒処分を受けた労働者が人事評価や昇給、昇格において不利益を被る可能性があり、これが適法ならばその法的効果は許容されるが、不適法な場合は違法で無効であるとされています。被控訴人が処分を違法と信じ、それに基づく不利益を避けるために無効確認を求める法的利益があると結論づけられています。
ただし、最高裁判決は本件のビラ配布については企業の外で行われたとしても「企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有する」場合には懲戒の対象となると判断し、本件の譴責処分は適法であり有効であるとしました。
ネスレ日本事件(最二小判平18・10・6労判925号11頁)
暴行事件から7年以上経過後の懲戒処分(論旨退職・懲戒解雇)は権利の濫用にあたり無効とされた事案(使用者敗訴)
事件の経緯として、労働者が有給休暇への振り替えを求めたが認められず、支部組合が抗議行動を起こし、その中で上司に対する暴行事件が発生。7年以上経過後に懲戒処分(諭旨退職処分)が通告されましたが、最高裁は懲戒解雇処分が企業秩序の観点から客観的に合理的な理由を欠き、権利の濫用であるとして無効と判断し、労働者の訴えを認めました。
日経ビーピー事件(東京地判平14・4・22労判830号52頁)
従業員Xは、出版社Y2社での職務遂行において悪い評価を受け、異動命令を拒否した後、福利厚生部への異動となり、そこでも業務不履行が続いたため、けん責処分や減給、出勤停止処分が行われましたが、Xはこれに反抗し、懲戒解雇となったものです。Xは異動命令の無効と懲戒処分の取り消しを求めましたが、裁判所はこれらの処分が適法であり、懲戒解雇も相当と判断し、Xの主張を全て却下したものです。
まとめ
就業規則の効力発生時期は、絶対的必要事項の記載と従業員への周知が必要です。従業員に対して公平かつ明確に規則が周知された日から効力が発生します。法令、労働協約、就業規則、労働契約の順に法的効力があり、就業規則は法令に基づいて作成され、優先されます。
就業規則の周知方法は、明確な記載事項と公平かつ明確な手段での周知が重要です。労働条件に関する契約規律効があり、就業規則で定めた条件が適用されます。就業規則の作成要件は、絶対的・相対的必要記載事項の記載、労働組合または労働者代表の意見聴取、労働者への周知が含まれます。
就業規則の作成義務は、事業場単位で「常時10人以上の労働者を使用する使用者」に課せられています。これに遵守することで、企業は法的基準を満たし、労働者との円滑な関係を築くことができます。
就業規則を作成の際は是非当法人にお問い合わせください!
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