フリーランス新法とは
フリーランス新法(正式名称: 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)とは、主にフリーランスへ仕事を発注する事業者に対して、報酬の支払期日の設定や書面等による取引条件の明示、そのほか業務委託の遵守事項を定めた法律です。
フリーランスの安定した労働環境整備などを目的として制定され、2023年4月に可決、2024年11月1日に施行予定です。
この度は、以下の項目に従ってフリーランス新法についての全体像と今後のフリーランスとの取引に関する注意点を紹介してまいります。
目次
1.フリーランス新法の全体像
(1)受注側(特定受託事業者(いわゆるフリーランス))
(2)発注側(業務委託事業者・特定業務委託事業者)
2.取引適正化に関する規制
(1)取引条件の明示義務
(2)報酬支払期日
(3)遵守事項(禁止行為)
3.就業環境整備に関する規制
(1)募集情報の的確表示義務
(2)育児介護等の業務の両立に対する配慮義務
(3)ハラスメントの防止措置義務
(4)中途解除等の事前予告・理由開示義務
4.フリーランス新法違反の制裁
(1)違反行為への対応
(2)発注事業者に違反と思われる行為があった場合
(3)フリーランス・トラブル110番に相談する
5.フリーランス活用のポイント
(1)取引条件の明示
(2)契約書の作成
6.まとめ
YouTubeの動画での解説も行っております!
1.フリーランス新法の全体像
(1)受注側
フリーランスでは「特定受託事業者」と呼び、主に個人事業者(従業員無し)や一人社長(法人)の事を指します。これが、いわゆる「フリーランス」です。ただし、従業員を雇っている場合であっても、20時間未満かつ31日未満の労働者は従業員を雇っている事に該当しない為、フリーランス新法が適用されます。
(2)発注側
発注側につきましてはいくつかの種類に分かれますので、順番にご紹介いたします。
①業務委託事業者
従業員または役員有無は問いません。主に個人事業者(従業員無し)や一人社長(法人)を指します。
受注側(フリーランス)に対する義務 ➡ 書面等による取引条件の明示
②特定業務委託事業者
従業員または役員がいる大企業、中小企業、個人事業者(従業員有り)を指します。
受注側(フリーランス)に対する義務 ➡ ・書面等による取引条件の明示
・期日における報酬支払
・募集情報の的確表示
・ハラスメント対策に係る体制整備
※業務委託の期間によっては上記の義務に加えて以下の義務が発生します。
「1か月以上の業務委託である場合」➡ 受領拒否や報酬の減額等の禁止
「6か月以上の業務委託である場合」➡ 受領拒否や報酬の減
額等の禁止、育児介護等と業務の両立に対する配慮、中途解除等の予告
2.取引適正化に関する規制
(1)取引条件の明示義務(法3条)
業務委託事業者≠特定業務委託事業者が、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は以下の事項を書面又は電磁的方法により明示しなければなりません。
①業務委託事業者及び特定受託事業者の商号、氏名もしくは名称、または事業者別に付された番号、記号、その他の符号であって業務委託事業者および特定受託事業者を識別できるもの
②業務委託をした日
③特定受託事業者の給付(提供される役務)の内容
④特定受託事業者の給付を受領し、または役務の提供を受ける期日等
⑤特定受託事業者の給付を受領し、または役務の提供を受ける場所
⑥特定受託事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
⑦報酬の額
⑧支払期日
⑨現金以外の方法で報酬を支払う場合の明示事項
上記について、書面の交付は必須とされておらず、電磁的方法(メール、SMS、SNSのメッセンジャー機能等)「受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信により送信する方法」が許容されています。
※ただし、書面の交付の求めがあった場合には、原則的には遅滞なく交付する必要があります。
(2)報酬支払期日(法4条)
1.60日の報酬支払期日
特定業務委託事業者は、給付内容を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に報酬支払期日を定める必要があり、
①支払期日が定められていない場合には受領した日、②受領日から起算して60日を超えた報酬支払期日が定められている場合には受領した日から起算して60日を経過した日が、報酬支払期日として設定されたものとみなされます。
2.30日の報酬支払期日
再委託の場合の30日の報酬支払期日の規定として、特定業務委託事業者が、他の事業者(元委託者)から発注を受けており、これを特定受託事業者に再委託した場合で、①再委託である旨、②元委託者の商号等、③元委託業務の対価の支払い期日を明示した場合には「元委託支払期日」(≠実際に元委託者から報酬が支払われた日)から起算して30日以内のできうる限り短い期間内で定めることができます。
①支払期日が定められていない場合には元委託支払期日が、②30日を超える報酬支払期日が定められている場合は元委託支払期日から起算して30日を経過した日が、報酬支払期日として設定されたものとみなされます。
(3)遵守事項(禁止行為)(法5条)
特定受託事業者との業務委託の期間が「1か月以上」である場合には下記の禁止行為を行ってはなりません。
遵守事項(禁止行為)
•受領拒否の禁止:注文した物品又は情報成果物の受領を拒むこと(法5条1項1号)
•報酬の減額の禁止:あらかじめ定めた報酬を減額すること(法5条1項2号)
•返品の禁止:受けとった物を返品すること(法5条1項3号)
•買いたたきの禁止:類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い報酬を不当に定めること(法5条1項4号)
•購入・利用強制の禁止:特定業務委託事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること(法5条1項5号)
•不当な経済上の利益の提供要請の禁止:特定受託事業者から金銭、労務の提供等をさせること(法5条2項1号)
•不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止:費用を負担せずに注文内容を変更し、または受領後にやり直しをさせること(法5条2項2号)
3.就業環境整備に関する規制
(1)募集情報の的確表示義務(法12条)
特定業務委託事業者は、新聞、雑誌、メール、SNSのメッセージ機能等の広告等により特定受託事業者の募集を行うときは、以下に定める情報について、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保つこと
①業務内容
②業務に従事する場所・期間・時間に関する事項
③報酬に関する事項
④契約の解除・不更新に関する事項
⑤特定受託事業者の募集を行う者に関する事項
(2)育児介護等の業務の両立に対する配慮義務(法13条)
特定業務委託事業者は「継続的業務委託」の相手方である特定受託事業者からの申出があった場合には、申出に応じて、特定受託事業者が育児介護等と業務を両立できるよう、「必要な配慮」をしなければなりません。
ここで「継続的業務委託」とは、6か月以上の業務委託を指します。なお、6か月未満の場合であっても、配慮義務が課されています。フリーランス新法の条文上は「必要な配慮」と定められているだけで、具体的にどのような配慮が考えられるかについては「指針」に示されています。
具体的には「打ち合わせ時間の調整」、「納期の変更」、「オンラインでの業務への切り替え」等が挙げられています。
(3)ハラスメントの防止措置義務(法14条)
特定業務委託事業者は、ハラスメント行為により特定受託業務従事者の就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければなりません。
1.ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、方針の周知・啓発
①発注事業者の方針等の明確化と社内(業務委託に係る契約担当者等)へ周知・啓発すること。
②ハラスメント行為者に対しては厳正に対処する旨の方針を就業規則などに規定すること。
2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
①相談窓口を設置し、フリーランスへ周知すること。
②相談窓口担当者が相談に適切に対応できるようにすること。
3.業務委託におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
①事案についての事実関係を迅速かつ正確に把握すること。
②事実関係の確認ができた場合、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に実施すること。
③事実関係の確認ができた場合、行為者に対する措置を適正に実施すること。
④ハラスメントに関する方針の再周知・啓発などの再発防止に向けた措置を実施すること。
4. 併せて講ずべき措置
①上記1~3の対応に当たり、相談者・行為者などのプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、
従業員およびフリーランスに対して周知すること。
②フリーランスが相談をしたこと、事実関係の確認などに協力したこと、労働局などに対して申出をし、適当な措置を求めた
ことを理由に契約の解除などの不利益な取扱いをされない旨を定め、フリーランスに周知・啓発すること。
(4)中途解除等の事前予告・理由開示義務(法16条)
• 発注事業者は①6か月以上の期間で行う業務委託について、②契約の解除または不更新をしようとする場合、③例外事由に該当する場合を除いて、解除日または契約満了日から30日前までにその旨を予告しなければなりません。
予告方法は①書面の交付、②ファクシミリ、③電子メール等のいずれかの方法で行う必要があります。ただし、以下の場合は例外事由に該当するため予告は不要です。
①災害などのやむを得ない事由により予告が困難な場合
②特定受託事業者に再委託をした場合で、上流の事業者の契約解除などにより直ちに解除せざるを得ない場合
③業務委託の期間が30日以下など短期間である場合
④基本契約を締結している場合で、特定受託事業者の事情により相当な期間、当該期間、当該基本契約に基づく業務委託をしていない場合
⑤特定受託事業者の責めに帰すべき事由がある場合
• 予告がされた日から契約が満了するまでの間に、フリーランスが解除の理由を発注事業者に請求した場合、発注事業者は、例外事由に該当する場合を除いて、遅滞なく開示しなければなりません。以下の場合については例外事由となり、開示は不要となります。
①第三者の利益を害するおそれがある場合
②他の法令に違反することとなる場合
4.フリーランス新法違反の制裁
(1)違反行為への対応
- フリーランスは、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省に対して、発注事業者に本法違反と思われる行為があった場合には、その旨を申し出ることができます。
- 行政機関は、その申出の内容に応じて、報告徴収・立入検査といった調査を行い、発注事業者に対して指導・助言のほか、勧告を行い、勧告に従わない場合には命令・公表をすることができます。命令違反には50万円以下の罰金の可能性があります。
- 発注事業者は、フリーランスが行政機関の窓口に申出をしたことを理由に、契約解除や今後の取引を行わないようにするといった不利益な取扱いをしてはなりません。
(2)発注事業者に違反と思われる行為があった場合
本法の違反があった場合、オンラインなどで申出が可能です。
勧告に従わない場合に、命令・公表を行います。命令違反をした場合、50万円以下の罰金が科せらる可能性があります。
(3)フリーランス・トラブル110番に相談する
法違反なのかよくわからない場合など、広く取引上のトラブルなどがある場合などには、フリーランス・トラブル110番にご相談いただくことも可能です。
(弁護士による電話・メール相談の対応のほか、和解あっせんも実施しています。)
☎ 0120-532-110 URL https://freelance110.mhlw.go.jp/
5.フリーランス活用のポイント
①取引条件の明示
取引条件の明示として求められる明示内容は概ね下請け法と同一です。
フリーランス新法の取引条件の明示は必ずしも書面(紙媒体)である必要はなく、メールやメッセンジャーアプリ上で同内容を明示することも可能です。
②契約書の作成
取引条件の明示は「契約書」の形式である必要はありませんが、取引トラブルはフリーランス新法の問題であるとともに、民法の問題でもあるため、契約書を作成しておくことが穏当です。
まとめ
フリーランス新法の施行は、フリーランス業界にとって画期的な変化です。発注側の条件変更や報酬支払の遅延など、これまで泣き寝入りせざるを得なかった問題に対し、法的な整備が進むことでフリーランスが安心して働ける環境が確保されることが期待されます。また、ハラスメント防止義務や労働環境の整備が義務付けられたことで、発注者とフリーランスの間に透明性と信頼関係がより求められるようになります。フリーランスにとっては、安定した取引基盤が強化される重要な施策といえるでしょう。
社会保険労務士法人 植本労務管理事務所
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