目次
1.懲戒処分ってそもそも何?
2.懲戒処分の種類
・「戒告・譴責」
・「減給」
・「出勤停止」
・「降格」
・「諭旨解雇」
・「懲戒解雇」
3.懲戒処分には正当性が大切!
4.適切な処分には適切な就業規則を!
懲戒処分ってそもそも何?
懲戒処分とは、企業が従業員に対して、企業内での規則違反などに対するペナルティを課す仕組みで、労働関係での不利益な制裁の一つです。この制度により、企業内の秩序を守られ、業務のスムーズな遂行が確保されるのです。
また、労働基準法第89条9号によれば、懲戒制度を設ける場合、その内容を就業規則などにしっかりと書き記す必要があります。それに加えて、もし懲戒処分が不当だと判断された場合、会社の責任が問われることも注意しましょう。
(※就業規則の詳しい解説はこちら→就業規則がないとどうなる?就業規則の基本から作成方法まで徹底解説!あなたの会社には就業規則はありますか??【社労士監修】)
懲戒処分は、企業の秩序を保つためで、労働関係を健全に保つための制度である為、慎重な運用が求められます。労働者と会社側の両方にとって、懲戒処分を正しく行使し、法的なルールを守ることが重要なのです。
懲戒処分の種類
懲戒処分にはいくつかの種類があり、「戒告」「譴責」「訓告」「減給」「出勤停止」「降格」「諭旨解雇」「懲戒解雇」などがあります。ただし、これらの処分の種類や程度は法律で具体的に規定されているわけではなく、その内容や適用条件は各企業の就業規則に規定されているものです。それに従って、懲戒処分が行われるのです。
以下、一般的な懲戒処分の種類とその特徴となります。
○戒告・譴責:将来の同様の違反を戒めるための注意喚起。懲戒処分ではなく、注意喚起の意味合いで使用されることもあります。また、違反を戒めるための口頭注意や始末書を提出させることが一般的です。
○減給:支給されるべき賃金から一部を差し引く処分。ただし、労働基準法の制限を超えることはできません。
○出勤停止:一定期間の労働を禁止する処分。適切な期間を超えると無効となることもあります。
○降格:降格は、従業員の職位や役職を上位から下位に変更する行為を指します。この処分は懲戒処分によるものと、人事権によるものの二つの側面があります。
○諭旨解雇:懲戒解雇よりも軽い処分であり、会社側の温情により退職金を支給する場合があります。
○懲戒解雇:最も重い懲戒処分であり、労働者を即日解雇し、退職金や解雇予告手当の支給が行われない可能性もあります。
懲戒処分の適用に際しては、事実確認と公平な処分を行うために、懲戒処分の事由と程度を明確に定め、労働者にも十分な弁明の機会を与えることが重要です。
懲戒処分は、労働関係の健全な維持に役立つ重要な制度であり、法律や就業規則に基づいた適正な運用が求められます。使用者側は懲戒処分を行う際には、慎重かつ公正な手続きを確保することが肝要なのです。
戒告・譴責
戒告と譴責は、労働者に対して将来に向けての反省を促し、軽微な違反行為に対する最も軽い懲戒処分として位置づけられています。
戒告は口頭での反省を求めることが一般的ですが、譴責では書面での反省を求めることが一般的です。労働者には、始末書として自己の違反行為を確認し、将来同様の行為を行わないことを誓約する内容の書類提出が求められることもあります。
ただし、労働者に事実経過や顛末を報告させるための書面に「始末書」という題名を使用することは、誤解を招く可能性があるため、これを「顛末書」や「報告書」として区別することが望ましいでしょう。
気を付けなければならないのが、譴責の場合は始末書の提出を強要することや反省を強要することが、労働者の憲法上の権利である「思想・良心の自由」を不当に制約する事にあたる可能性があるのです。
減給
減給は、従業員の問題行動に対する懲戒処分の一つで、給与を一時的に減額する制裁措置です。
この減給処分は、労働者保護の観点から法律上の制限が設けられており、1回の問題行動に対する減給の限度額は1日分の給与額の半額です。
減給には法的に許容された限度額を超える減給は行えません。以下がその要件になります。
・1回の減給金額は平均賃金の1日分の半額を超えてはならない
・複数回規律違反をしたとしても、減給の総額が一賃金支払期における金額(月給なら月給の金額)の10分の1以下でなくてはならない
減給は労働者にとって経済的な制裁であり、慎重な判断と適切な法的手続きが求められます。労働者保護の立場から、法的制約が設けられているため、減給処分を科す際には法律に準拠することが必要です。
出勤停止
出勤停止は従業員の労働契約を継続しつつ、一定期間にわたり労働者の就労を禁止する処分です。
期間中は賃金が支給されず、かつ勤続年数にも通算されないのが一般的です。
期間と注意点
出勤停止期間は企業によって異なり、通常は1~2週間程度で定められます。
期間があまりに長い場合、解雇と同様の意味合いを持つ可能性があり、法的に問題が生じる可能性があります。
法的上の規制
出勤停止期間には法的な上限が設けられていませんが、企業は就業規則で期間の上限を設定することが一般的です。
給与との関係
出勤停止期間中は賃金が支給されません。このため、従業員にとっては経済的にも重い制裁となります。
自宅待機との区別
出勤停止と自宅待機は区別されるべきです。自宅待機は懲戒処分ではなく、懲戒事由の調査のために労働者に自宅待機を命じるものであり、期間中は給与の支払いが必要です。
労働者の対応
出勤停止処分を受けた従業員は、給与の支給停止などに不安を感じ、抗議や労働組合への相談、あるいは法的手続きを検討することがあります。
出勤停止は、企業が労働者に対する厳しい制裁手段の一つであり、法的な規定や公平な手続きが重要です。労働者と企業との対話や適切な処分の検討が必要です。
降格
降格は、従業員の職位や役職を上位から下位に変更する行為を指します。この処分は懲戒処分によるものと、人事権によるものの二つの側面があります。
懲戒処分による降格
会社が懲戒権を行使して、従業員に対する処分として降格を行う場合があります。
典型的な例として、ハラスメントや社内規則に対する重大な違反行為が挙げられます。
処分を行うには、就業規則の規定が必要であり、懲戒事由に該当し、合理的かつ社会通念に適している必要があります。
諭旨解雇
諭旨解雇(ゆしかいこ)は、問題行動が懲戒解雇に該当する場合でも、従業員の貢献や情状酌量を考慮し、退職を勧告して退職届を提出させ、それに従わない場合に解雇する懲戒処分の一形態です。通常、懲戒解雇よりもやや軽い措置とされ、従業員に対する一定の温情を含んでいます。
~諭旨解雇の特徴~
温情を含む処分
問題行動が懲戒解雇に相当する場合でも、従業員の過去の貢献や状況を考慮して行われるため、懲戒解雇よりも温和な処分とされます。
退職届の提出勧告
従業員に対し、諭旨解雇を避けるために自発的に退職届を提出するように勧告されます。
懲戒解雇への進展
従業員が退職届を提出しない場合は、通常は懲戒解雇に進むことが予定されています。
法的な規定と注意点:
法的な明確な規定はない
諭旨解雇について法的な明確な規定は存在せず、各企業の就業規則で取り決められるため、企業ごとに異なる内容となります。
懲戒処分の一環
諭旨解雇は懲戒処分の一環であり、企業が秩序を維持し、円滑な運営を確保する権限のもと、従業員に科す制裁と位置づけられています。
諭旨解雇は、従業員に対する問題行動への対応として、懲戒解雇よりもややマイルドながらも重い処分です。温情を含む提案として、従業員の反省や自発的な行動を促し、円滑な離職を図ることを目的としています。ただし、法的な規定がないため、各企業の就業規則に基づき、慎重に実施されるべきです。
懲戒解雇
懲戒解雇は、企業が従業員に対して行う、最も重い制裁の形であり、労働契約を一方的に解約する処分を指します。この措置は、従業員が職場規律違反や企業秩序の重大な違反を犯した場合に実施されます。
合法的な懲戒解雇を行うためには、就業規則上の懲戒事由に該当し、かつ解雇権の濫用に当たらないことが求められます。以下は、懲戒解雇の適法性を確保するための注意点です。
行為の悪質さの評価
従業員の行為がそれほど悪質でない場合、または改善の余地がある場合、懲戒解雇が解雇権の濫用に当たる可能性があります。
十分な改善指導の実施
従業員に対して十分な改善指導が行われなかった場合、懲戒解雇が正当性を欠く可能性があります。適切な対応が行われていることが求められます。
懲戒解雇は、主に従業員の「規律違反」に対する制裁として位置づけられます。横領や取引先からのリベートの受領、業務命令の拒否、無断欠勤、ハラスメント行為、経歴詐称などが懲戒解雇の典型的な例です。
また、懲戒解雇の特徴として以下が挙げられます。
経済的損失
懲戒解雇を受けると、退職金が減額されるか支給されないことがあり、解雇予告手当が支給されない場合もあります。
退職金が支給されない(滅額)規定については、賃金の支払いが後払い的性格を有するため、賃金全額払いの原則(労基法24条1項)に違反していないかが問題になります。ただし、退職金は退職時において初めて確定し、退職時までは債権として成立していないため、退職金不支給規定は賃金全額払いの原則には抵触しないと見なされます。また、退職金の功労報償的性格に照らしても、退職金不支給規定が公序良俗違反として即座に無効となるものではありません。
ただし、裁判実務では、退職金不支給規定を適用できるのは、労働者のこれまでの勤続の功績を著しく抹消または減殺するほどの著しい信義に反する行為があった場合に限られるとする判例が多く見られます(小田急電鉄事件・東京高裁平成15年12月11日判決)。一方で、退職金不支給条項しか規定されておらず、減額条項の規定がない場合で、全額不支給が相当でない場合には、当該条項を即座に無効とはせず、一定程度の減額を認める判例もあります(上記小田急電鉄事件高裁判決では3割の支払いを命じています)。
そこで、本件について、退職金の不支給が許されるほどの勤続の功労を抹消してしまうほどの行為があったと判断できるか慎重に検討する必要があります。
就職における不利益
転職や再就職において不利益が生じ、失業保険の受給にも支障が生じる可能性があります。
懲戒解雇が行われる場合、企業は懲戒権を有しており、これは企業の秩序を維持するために与えられる権利です。ただし、懲戒解雇は従業員にとって非常に厳しい処分であるため、法令や倫理に基づいて正当性が求められます。
懲戒解雇が正当であるためには、適切な手続きが踏まれ、従業員に公正な機会が与えられ、法的要件が満たされていることが必要です。企業は慎重な対応が求められ、労働者の権利を尊重する一方で、企業の秩序を維持するために必要な措置を取る必要があるのです。
懲戒処分の正当性
労働契約法15条では、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質および態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、当該感戒は無効とする。」とされています。
したがって、懲戒処分が有効となるためには、①懲戒処分の根拠規定の存在、②懲戒事由への該当性、③懲戒処分の相当性(懲戒処分がその違反行為の程度に照らして均衡のとれたものであることが必要とされています。
①懲戒処分の根拠規定の存在と②懲戒事由への該当性について
懲戒処分には就業規則上の根拠が必要であり、懲戒事由は明確に定められている必要があります。懲戒処分前にはまず、就業規則の懲戒の規定を確認することが重要です。もし就業規則に記載のない理由で懲戒処分を行った場合、裁判で無効と判断される可能性があります。
③懲戒処分の相当性について
労働契約法の15条では、懲戒が客観的に合理的であり、社会通念上相当である場合に限り有効とされています。そのため、懲戒処分の決定においては、不祥事の度合いや社会通念に照らして妥当性を検討する必要があります。また、同一もしくは類似する罪には平等な扱いが求められ、適正な手続きを経ていることも重要です。
懲戒処分を行う際には、従業員に弁明の機会を与え、一定の手続きを踏むことが求められます。懲戒解雇の意思表示も適切に行う必要があります。総じて、懲戒処分においては法的な要件と公平な手続きが重要であり、これらを遵守することで有効な処分となります。
適切な処分には適切な就業規則を
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