2020年6月に行われた「労働施策総合推進法」の改正により、国は職場のハラスメント対策を強化し、事業主にパワーハラスメントの防止措置を義務付けました。この改正に基づき、事業主は以下の措置を実施する必要があります。
1.事業主は自社の方針を明確化し、従業員に周知徹底する必要があります。これには、ハラスメントに関する徹底した啓発も含まれます。
2.パワーハラスメントに関する相談窓口を設置し、その対応体制を整備する必要があります。従業員が匿名で相談できる環境を提供することが重要です。
3.職場で発生したパワーハラスメントに対しては、事後の迅速かつ適切な対応が求められます。被害者を支援し、加害者には適切な処置を行うことが含まれます。
中小企業の事業主も2022年4月1日からこれらの措置の実施が義務付けられており、法改正はハラスメントに対する取り組みの重要性を強調しています。
ハラスメント対策については、YouTubeでも解説しております。
こちらの動画は社内研修用にもお使いいただけますので、是非ご参考にしてください。
職場でのハラスメントは、問題が発生すると、従業員の働く意欲が低下し、心身の不調や能力発揮の阻害を起こしたり、職場環境が悪化するなど大きな問題になり得ます。
今回は「セクシュアルハラスメント」「妊娠・出産・育児・介護等に関するハラスメント 」「パワーハラスメント」について、職場で起こさないための対策を解説いたします。
目次
1. セクシュアルハラスメント
・セクシュアルハラスメントとは
・どんな言動がセクハラになるの?
・セクハラ当事者の性別は?
・セクシュアルハラスメントを起こさないために意識すること
2. 妊娠・出産・育児・介護等に関するハラスメント
・妊娠・出産・育児・介護等に関するハラスメントとは
・妊娠・出産・育児・介護等に関するハラスメントを起こさないために
3.パワーハラスメント
・パワーハラスメントとは
・パワハラの代表的な6類型
・どのようなものがパワハラに該当するの?
・パワーハラスメントを起こさないためにどうすればいいの?
4.ハラスメントが起きてしまったら(もし、あなたが行為者になったら・・・・・)
5.職場でハラスメントが起きてしまったら
6.ハラスメント解決までの流れ
1. セクシャルハラスメントとは
職場において行われる労働者の意に反する「性的な言動」により、その労働者が
「労働条件について不利益を受けたり」、「性的な言動」により「就業環境が害されること」です。セクシャルハラスメントは大きく2つに分類されます
対価型セクシャルハラスメント
「労働条件について不利益を受ける」:労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(抵抗や拒否)により、その労働者が解雇、降格、減給などの不利益を受けることを指します。
環境型セクシャルハラスメント
「就業環境が害される」:労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等その労働者が就業する上で看過できない程度の支障を生じることを指します 。
どんな言動がセクハラになるの?
≪何が許されない言動か≫
セクハラに該当する「性的な言動」とは、性的な内容の発言と性的な行動に分けられます。
①性的な内容の発言
性的な内容の発言とは、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布する
こと、性的な冗談やからかい、個人的な性的体験談を話したり、聞いたりすること
≪具体例≫
・「スリーサイズは?」と被害者に直接面と向かって言う
・被害者が「不倫している」と不特定多数の人に吹聴する
・「彼氏いるの?」といったことを執拗に尋ねる
・女性だけに殊更に「~ちゃん」付で呼ぶこと
・「おばさん、ばばあ、くそばばあ」と中傷するような言動
その他、結婚、体型、容姿、服装などに関する発言など
②性的な行動
性的な行動とは、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触れること、わいせつな図画
を配布・掲示すること、強制わいせつ行為、強姦行為などがこれに当たります。
セクハラを起こさないために意識することは
セクハラ当事者の性別は?
(1)男性から女性へのセクハラ
(2)女性から男性へのセクハラ
⇒セクハラは、「男性」から「女性」になされるものと考えがちですが逆パターンもある。
(3)同性同士のセクハラ
⇒厚労省のセクハラ指針では、職場におけるセクシャルハラスメントには、「同性に対するものも含まれる」と明記されています。
(4)LBGTQに関するセクハラ
⇒さらに、セクハラ指針では、「被害を受けた者の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシャルハラスメント」も含まれると示されている。
セクハラを起こさないために意識することは??
●セクシュアルハラスメントの内容には、異性に対するものだけではなく、同性に対す るものも含まれます。
●また、被害を受ける者の性的指向や性自認にかかわらず、性的な言動であればセク シュアルハラスメントに該当します。
● 性別役割分担意識に基づく言動は、 「ハラスメントの発生の原因や背景」となり得ますので、このような言動をなくしていくことがセクシュアルハラスメントの防止の 効果を高める上で重要です。
●性別役割分担意識に基づく言動の例としては、以下が考えられます。
①「男のくせに根性がない」、「女には仕事を任せられない」などと発言する。
② 酒席で、上司の側に座席を指定したり、お酌等を強要する。 性別役割分担意識に基づく言動そのものがセクシュアルハラスメントに該当するわけではありませんが、セクシュアルハラスメントの発生の原因や背景となり得るため、 こうした言動も含めてなくしていく必要があります。
≪セクシャルハラスメントにおける裁判例≫
バイオテック事件:東京地判平14.11.27労経速1824・20
女性管理職が男性社員に対し、セクハラをする等の勤務態度不良により業務に著しい支障が生じたとして解雇されたところ、その解雇の有効性が争われた事例
⇒女性管理職が、男性社員に対して、「後方から抱き着く、口を耳元に密着させる、手を握る、腕を首に絡ませる、自分の年齢がいくつに見えるのかを執拗に尋ねる、体に触る」といった行為等をしたことに基づく解雇は有効とされた。
2.妊娠・出産・育児・介護等に関する
ハラスメント(マタニティハラスメント)とは
職場において行われる上司・同僚からの言動 (妊娠・出産したこと、不妊治療に対する否定的な言動、育児休業・介護休業等の利用に関する言動) により、妊娠・出産した「女性労働者 」や 育児・介護休業等を申出・取得した「男・女労働者 」等の 就業環境が害されることです。
「制度等の利用への嫌がらせ型 」
妊娠、出産、育児、介護等の制度又は措置の利用に関して相談、請求、利用したことによる以下のような言動を指します。
・上司が、解雇、降格その他不利益な取り扱いを示唆する言動
「制度を利用するなら、辞めてもらう」「制度を利用するなら、昇進できないと思え」など
・上司や同僚が、制度等の利用や請求を阻害する言動
制度を請求しないように言う。請求を取り下げるように言う。
・上司や同僚が、制度等を利用したことにより繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をする
制度を利用している人には、重要な仕事を任せられない。専ら雑務をさせる。
制度を請求しないように言う。請求を取り下げるように言う。
制度を利用していることに対して「周りの迷惑を考えていない」など、繰り返し、
又は継続的に嫌がらせ的な言動を行う。
「状態への嫌がらせ型 」
女性労働者が妊娠したこと、出産したこと等に関する言動により、就業環境が害されること
・上司が、解雇、降格その他不利益な取り扱いを示唆する言動
女性従業員が妊娠したことを報告したところ「ほかの人を雇うので、辞めてもらう」と
言う。
・上司や同僚が、妊娠等をしたことにより繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をする<>/font>
「妊婦はいつ休むかわからないから、仕事は任せられない」と繰り返し言い、
仕事をさせない状態が続いている。
「妊娠するなら、忙しい時期を避けるべきだった」と繰り返し言い、精神的に
非常に苦痛を感じている。
マタハラを起こさないためには?
職場における妊娠・出産・育児・介護等に関するハラスメントを未然に防止
するための以下の職場づくりに取り組みましょう。
・妊娠から産休、育休、復職後までの流れや、利用可能な制度等を理解しましょう。
・妊娠した従業員や育児休業等の制度を利用する従業員は、周囲との円滑なコミュニケーションを心掛け、自身の体調等に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持ちましょう。
・妊娠中・育児中の制度を利用しながら働いている従業員に対しては、業務の状況とともに、周囲とのコミュニケーションに関しても目配りするようにしましょう。
・特定の人に向けた言動でなくても、妊娠・出産や育児休業・介護休業制度の利用について否定的な発言をすることは、ハラスメントの発生の原因や背景になり得ますので、注意しましょう。
・「子どもが小さいうちは家にいた方がいいのではないか」など、自分の価値観を押し付けないようにしましょう。
・自分の行為がハラスメントになっていないか注意しましょう。
・隠れたハラスメント行為がないか、周囲のメンバーの変化についても注意しましょう。
≪マタニティハラスメントにおける裁判例≫
広島中央保険生協(C生協病院・差戻審)事件(広島高判平27.11.17)
・Xの妊娠に伴う軽易業務への転換請求により訪問介護ステーションFから病院リハビリステーションへ異動したことを契機として副主任から降格されたことと、育休後に復帰するも副主任に戻されなかったことが不法行為又は債務不履行として損害賠償責任が認められた事案
⇒損害賠償として175万3310円(慰謝料100万円、差額賃金30万4000円、出産手当金8万7514円、産休見舞金差額1万3132円、雇用保険育児休業給付金差額4万8664円、弁護士費用30万円)
パワーハラスメントとは?
職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる
「①優越的な関係を背景とした言動」であって、「②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」により、「③労働者の就業環境が害される」ものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
① 「優越的な関係を背景とした言動」
業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者とされる者(以下「行為者」という。)に対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。
・職務上の地位が上位の者による言動
・同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの 等
② 「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」
社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指します。
・業務上明らかに必要性のない言動
・業務を遂行するための手段として不適当な言動
③ 「労働者の就業環境が害される」
当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当です。
パワハラの代表的な6類型
パワーハラスメントには主に6つの類型に分類されます。以下の図で「代表的な言動の類型」「該当すると考えられる例」「該当しないと考えられる例」を確認しましょう。
どのような事がパワハラに該当するの?
※注意指導とパワハラの区別
職場の業務を円滑に進めるために、管理職に一定の権限が与えられています。
業務上必要な指示や注意・指導などもその一つです。厳しい指導であっても、
「業務上の適正な範囲」と認められる限り、パワーハラスメントには当たりません。
(1)業務上の必要性があるか否か
業務上の必要性があれば、厳しい改善指導も許容される傾向にあります。
(2)人格非難か、行動に対するアドバイスか
業務上の必要性がある場合であっても、単なる人格非難に終始している言動はパワハラに該当すると判定される傾向にあります。
(3)見せしめ的な対応がなされていないか
注意指導の必要性が認められる局面であっても、衆目を集めるような形で叱責や罰を与えるという手法は、名誉棄損に該当する等として違法性が認められる傾向にあります。
(4)相手の属性や心身の状況を理解したうえでの指導か
注意指導の相手が新人であるのかベテランであるのかといった「属性」や、精神障害者であ
るといった「心身の状況」も違法性を判断するに当たっては考慮されます。
(5)長時間・繰り返しになっていないか
注意指導の必要性が認められる局面であっても、叱責が長時間、頻回にわたって行
われる場合は違法性が肯定される傾向にあります。
パワハラを起こさないために
どうすればいいの?
① パワーハラスメントについての十分な理解・関心を深め、他の労働者(※)に対する言動に必要な注意を払う。(※)取引先等の他の事業主が雇用する労働者や休職者も含まれます。
② パワーハラスメントにならないためのコミュニケーションを心がける。
円滑な職場コミュニケーションの醸成・業務上の指示や指導・教育の適切な方法の理解
・叱る対象・理由は正当な範囲かどうか
・自分の感情を認識する(怒り、怖れ、悲しみ、焦り、妬み)
・攻撃でなく「改善点を的確に指摘・指導」する
・相手を見て接し方を工夫する
・不要な誤解を招かないコミュニケーションを心掛ける
③ 隠れたパワーハラスメントがないか、周囲のメンバーの変化に注意
④ パワーハラスメントを起こさせない、職場環境づくりの役割理解(管理職)
⑤ 事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力する
もしもハラスメントが起きてしまったら!?
(もし、あなたが行為者になったら・・・。)
会社内での処分
懲戒規定(就業規則):「譴責」「減給」「出勤停止」「昇給停止」
「降格」 「諭旨解雇」「懲戒解雇」等
民事上の責任として損害賠償を請求される
民事上の責任:(行為者には)民法709条の不法行為責任
(法人には) 民法415条の債務不履行責任(安全配慮義務違反)
民法715条の使用者責任
刑事罰に課せられる
刑事罰:名誉棄損、侮辱罪、脅迫罪、暴行罪、傷害罪等
15年以下の懲役、または50万円以下の罰金などが科せられる可能性があります。
※厚生労働省:現行制度において職場のパワーハラスメント等に適用され得る措置、対策等より
⇒裁判にならないまでも、職場内での信用や、地位を失ったり、家庭への影響、家庭の崩壊なども考えられます。管理職の方は、自分自身の言動はもちろん、あなたの部下がそのような行為をしないよう、注意や指導をすることも必要です。
職場でハラスメントが起きてしまったら
ハラスメントを受けた人は
・ハラスメントを我慢していても解決しません。逆にエスカレートする可能性もあります。
・一人で悩まず、上司や人事部人事課や相談窓口に相談しましょう。
・人事部人事課や相談窓口では、相談者の方の了解を得た場合にのみ、上司や行為者の方に対するヒアリングなどの対応を行います。
ハラスメントに気付いた人は
・見て見ぬふりをしていては職場環境が悪化してしまうかもしれません。
・他人ごとではなく、自らにも降りかかってくる可能性もあります。
ハラスメントを受けた人から相談があった場合
・公平、迅速な対応を心がけましょう。
・ゆっくり時間をかけて相談者の話を聞きましょう。
・相談者の了解を得て、上司や人事部人事課に報告し、対応について相談しましょう。
・個人情報には十分注意しましょう。
≪パワーハラスメントにおける裁判例≫
岡山県貨物運送事件 (仙台高判平26・6・27判時2234・53)
新入社員(亡D)は新入社員にままみられるようなミスを繰り返したために、上司から厳しい叱責を頻繁に受け、業務日誌にも厳しいコメントを付される等して自殺に至った。
⇒裁判所の判断
「亡Dは社会経験、就労経験が十分でなく大学を卒業したばかりの新入社員である」とした上で、「上司からの叱責に不慣れであった亡Dに対し、一方的に威圧感や恐怖心、屈辱感、不安感を与えるものであったというべきであり、第一審被告Yの叱責が亡Dに与えた心理的負荷は、相当なものであったと認めるのが相当である」等と認定。
会社でのハラスメント解決までの流れ
1.本人(相談者)との面談
面談にあたっては、必ずプライバシーが確保できる場所を準備します
秘密は絶対に守ります!
2.事実関係の確認
行為者ヒアリング/第三者ヒアリング(必ず本人(相談者)の了解をとってから行います)
3.行為者、相談者の意向を確認し、各人への対応を検討
(例)
「配置転換」「行為者謝罪」「関係改善援助」「不利益回復」「職場環境回復」
「メンタルケア」等
<懲戒に値する場合>
「譴責」「減給」「出勤停止」「昇給停止」 「降格」「諭旨解雇」 「懲戒解雇」等
4 .相談者、行為者へのフォロー
5 .再発防止
~当法人ができる事~
当法人では、企業様のより良い職場環境構築の為のお手伝いとして、ハラスメント対策研修を行っております。実際に会社へお伺いしての研修や、Zoom等のWEB会議にも対応いたしております。
ハラスメントへの対策は事前の準備と従業員への十分な理解が必要です。当法人と、企業様に合った対策や対応を一緒に検討していきませんか?是非ご相談をお待ちしております。
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