退職後でも傷病手当金は受給できる?条件と金額を社労士が解説

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退職後でも傷病手当金は受給できる?条件と金額を社労士が解説
退職後でも傷病手当金は受給できる?条件と金額を社労士が解説

目次

退職後でも傷病手当金は受給できる?条件と金額を社労士が解説

監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士)

退職後でも傷病手当金は受給できるのか、という質問は非常に多く寄せられます。
結論としては、一定の条件を満たせば退職後も受給可能です。ただし、退職日までの加入状況や休業のタイミングを誤ると、本来受けられるはずの給付が不支給になることがあります。

この記事では、健康保険法および協会けんぽ等の公表情報に基づき、退職後の傷病手当金について、受給条件・金額の考え方・退職前の注意点・失業保険や年金との関係・実務上の手続きを整理して解説します。
会社の労務担当者の方が従業員から相談を受けた際に、基本的なポイントを押さえられる内容としています。

まずは受給額の目安を確認

退職前でも退職後でも、支給額は標準報酬月額をもとに概算できます。退職時期や休業期間を検討する前に、おおよその水準を把握しておくと判断しやすくなります。

※本ツールは協会けんぽの算定方法を参考にした概算です。実際の支給可否・金額は、加入している健康保険(協会けんぽ・健保組合等)の審査結果により決まります。

【結論】退職後でも傷病手当金は受給できる

退職すると健康保険の被保険者資格は原則として退職日の翌日に喪失しますが、資格喪失時点で傷病手当金の受給要件を満たしていれば、退職後も継続して支給を受けられる場合があります。
健康保険法上は、これを「資格喪失後の継続給付」といいます。

重要なポイント
退職後に「新しく傷病手当金の権利が発生する」わけではなく、
在職中に発生した傷病手当金の権利を、退職後もそのまま引き継ぐ制度です。

したがって、退職後に継続給付を受けるためには、退職日の時点ですでに支給要件を満たしていることが必要となります。

退職後に受給できる5つの主な条件

退職後に傷病手当金を受給するには、一般的に次の条件をすべて満たすことが必要です(協会けんぽの取扱いを前提としています)。

① 退職日の前日までに継続して1年以上、健康保険の被保険者であること

資格喪失日の前日(通常は退職日)までに、継続して1年以上の被保険者期間があることが要件です。
ここでいう「継続」とは、協会けんぽと健康保険組合間の異動など、健康保険の一般被保険者としての期間に1日も空白がないことを指します。

  • 協会けんぽ → 健康保険組合 など、一般被保険者どうしの切替が途切れなく行われている場合は通算可能
  • 途中で任意継続被保険者や国民健康保険に加入している期間が入ると、その部分はこの「1年以上の被保険者期間」には含まれません

※詳細は加入している健康保険の案内を必ずご確認ください。
参考:全国健康保険協会「傷病手当金(資格喪失後の継続給付)」

② 資格喪失時点(退職日)に傷病手当金の受給要件を満たしていること

退職日の時点で、すでに傷病手当金の支給を受けているか、受給要件を満たしていることが必要です。
受給要件には、以下の3点が含まれます。

  • 業務外(私傷病)の病気やけがで療養中であること
  • その病気やけがのために労務不能(今までの業務に就けない状態)であること
  • 賃金が支払われていないか、支払われていても傷病手当金より少なく、差額支給の対象となること

退職日に挨拶や引継ぎのために短時間でも出勤した場合、その日は「労務に服した日」と判断される可能性が高く、継続給付の要件を満たさない取扱いとなるのが一般的です。

退職日の取り扱いは非常に重要です
形式的に出社しただけでも、「その日は働けた」と判断され、資格喪失後の継続給付が認められないケースがあります。退職日をどう設定するか、また当日の勤務の有無については、事前の確認が不可欠です。

③ 待期3日間が完成していること

傷病手当金は、連続する3日間の待期期間が完成して初めて4日目から支給対象となります。待期は、労務不能である日が連続して3日必要で、公休日や年次有給休暇で休んだ日も含めることができます。

退職後の継続給付を受けるには、退職日までにこの待期3日間が完成していることが前提となります。
待期が退職後にまたがってしまうと、資格喪失時点で受給要件を満たしていないと判断されるため、退職後の継続給付はできない取扱いとなります。

よくある不支給パターン
・療養のための欠勤を始めたものの、3日連続の待期が退職日までに完成していなかった。
・間に出勤日が入ってしまい、待期が「連続3日」として認められなかった。
いずれも、退職後の継続給付は認められない可能性が高くなります。

④ 退職日と同一の傷病で、退職後も労務不能が継続していること

継続給付は、退職日(資格喪失日)に存在していた傷病と同一の傷病について行われます。退職後に新たに発生した違う傷病については、退職後に新たに資格を取得しない限り、健康保険の傷病手当金の対象にはなりません。

また、退職後に一度「労務可能」となり、その後同じ病気が再発した場合でも、資格喪失後の継続給付では、一度でも労務可能になった時点で支給は終了し、その後の再発について再度の申請はできないのが一般的な運用です。

⑤ 支給開始日から通算1年6か月の範囲内であること

傷病手当金の支給期間は、最初に傷病手当金の支給を受けた日(支給開始日)から通算して1年6か月が上限です。退職したかどうかにかかわらず、この上限は変わりません。

  • 在職中に1年間受給してから退職した場合、退職後に受給できるのは残り6か月分まで
  • 退職後に受給を開始したように見えても、あくまで「在職中の支給開始日」から通算してカウント

※複数の傷病がある場合の支給期間の扱いは複雑になることがあります。実際の取扱いは加入先の健康保険に確認してください。

傷病手当金の計算式図解

退職後の傷病手当金はいくらもらえるか

支給額は、原則として標準報酬月額をもとに計算します。協会けんぽの算定方法では、1日あたりの額はおおむね「標準報酬月額 ÷ 30 × 3分の2」となります。

基本の計算式(協会けんぽの例)

(支給開始日の以前12か月間の各標準報酬月額の平均 ÷ 30)× 3分の2

・支給開始日の以前の被保険者期間が12か月以上ある場合は、原則として直近12か月の標準報酬月額の平均を用います。
・12か月未満の場合は、支給開始日前の標準報酬月額の平均と、厚生労働大臣が定める額(2025年4月1日以降は32万円)を比較し、低い方を基準として計算します。
・実際の端数処理(1円未満の四捨五入等)は、各保険者の決めた方法によります。

計算例

項目内容
支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均300,000円
1日あたりの標準報酬日額300,000円 ÷ 30 = 10,000円
傷病手当金の日額10,000円 × 3分の2 = 6,666.66…円 → 約6,667円
30日分の支給見込み6,667円 × 30日 = 200,010円(概算)

※実際の支給額は、待期3日分を除いた支給対象日数や、休業期間中に支給された賃金・賞与などとの調整結果により異なります。
※有給休暇で賃金が全額支払われている日については、原則としてその日数分の傷病手当金は支給されません(賃金の方が優先されます)。

賃金が一部支払われている場合の考え方

休業期間中に、会社から賃金が一部支払われている場合でも、その賃金の日額が傷病手当金の日額より少ないときは、差額が支給されます。

  • 賃金の日額 ≧ 傷病手当金の日額 → その日は傷病手当金の支給なし
  • 賃金の日額 < 傷病手当金の日額 → 差額分のみ傷病手当金が支給

退職後は会社から賃金が支払われることは通常ありませんので、継続給付の期間については、賃金との調整は生じないケースが多くなります。

支給額イメージ

退職前に「やってはいけない」典型例

退職後の継続給付の可否は、退職日前後の勤怠の取り扱いに大きく左右されます。実務上、特に注意したい点を整理します。

① 退職日に出勤してしまう

退職日に少しでも働いた実態があると、その日は労務不能ではなく労務可能であったと判断されるおそれがあります。
資格喪失時点で「傷病手当金を受けているか、受給要件を満たしていること」が必要であるため、退職日に出勤してしまうと、その条件を欠く結果となり、資格喪失後の継続給付が認められない可能性が高くなります。

② 待期完成前に退職する

先述のとおり、傷病手当金は待期3日間の完成が前提条件です。
「退職直前から休み始めたが、3日連続の待期が完成する前に退職日が到来した」場合、退職後の継続給付の対象とはなりません。

また、待期の3日間は「暦日」でカウントされ、有給休暇や公休日も含めることができますが、途中に出勤日(労務可能日)が入ると連続性が途切れる点にも注意が必要です。

③ 会社への申請依頼を後回しにする

在職中に申請する傷病手当金の書類には、事業主の証明欄(勤務状況・賃金状況)が含まれます。退職後に連絡が取れなくなったり、書類の回収に時間がかかったりすると、申請が大幅に遅れることがあります。

退職後の継続給付分については、協会けんぽの様式では、申請期間に在職期間が1日も含まれていなければ事業主証明が不要となる取扱いがありますが、退職前の分をあわせて申請する場合は会社の証明が必要となります。
そのため、退職前に申請書の入手・記載方法の案内・会社証明欄の準備までを済ませておくことが実務上は重要です。

退職後も継続して受給できるケースのイメージ図

傷病手当金と失業保険・年金などとの関係

退職後は、健康保険(傷病手当金)だけでなく、雇用保険(失業給付)や公的年金との関係も重要になります。制度ごとの目的や支給要件が異なるため、同時に受けられない場合があります。

失業保険(雇用保険基本手当)との関係

傷病手当金と失業保険(基本手当)を同時に受給することはできません。理由は、両制度の支給要件が根本的に異なるためです。

  • 傷病手当金:病気やけがにより労務不能であることが要件
  • 失業保険(基本手当):「労働の意思および能力がある」にもかかわらず失業している、すなわち労務可能であることが要件

退職後に傷病手当金を受給している人が、後に仕事探しをする場合には、ハローワークで「受給期間延長」の手続きを行い、病気が回復し働ける状態になってから失業給付を受ける流れが一般的です。

参考:厚生労働省「雇用保険制度について」

老齢年金との関係(退職後)

在職中は、原則として傷病手当金と老齢厚生年金等は併給可能ですが、退職後(資格喪失後)の継続給付期間中に老齢厚生年金等の老齢退職年金を受けられるようになった場合には、傷病手当金が全額または一部支給停止となる可能性があります。

具体的には、老齢厚生年金等の年金額を360で割った額と、傷病手当金の日額を比較し、

  • 年金額の360分の1 ≧ 傷病手当金の日額 → 傷病手当金は支給されない
  • 年金額の360分の1 < 傷病手当金の日額 → 差額が傷病手当金として支給

参考:全国健康保険協会「傷病手当金と年金との調整」

障害年金との関係

退職後の継続給付期間中に、同一の傷病により障害厚生年金または障害基礎年金の支給を受ける場合も、傷病手当金との調整が行われます。
同一の傷病による障害年金と傷病手当金が重なる場合、原則として傷病手当金は支給されませんが、前記の老齢年金と同様に、年金額の360分の1と傷病手当金の日額を比較して、年金の日額が少ない場合は差額支給となります。

労災保険との関係

同一の傷病について、健康保険の傷病手当金と労災保険(休業補償給付等)を同時に受けることはできません
後から労災認定された場合には、それまでに支給された傷病手当金を返還する必要が生じることがあります。

退職前後に発生した傷病が、業務に関連する可能性があるかどうか(業務災害・通勤災害の疑いがないか)については、事案ごとに慎重な確認が求められます。

出産手当金・育児休業給付金との関係

・同一期間に出産手当金の支給対象となる場合は、原則として出産手当金が優先し、傷病手当金は支給されません。ただし、傷病手当金の日額が出産手当金の日額を上回る場合は、その差額が支給される取扱いとなります。
・一方、育児休業給付金と傷病手当金は、支給要件が異なるため、原則として併給が可能とされています(育児休業給付金側での調整も現行では行われていません)。

退職後に傷病手当金を受給するまでの流れ

退職後も継続して傷病手当金を受けるための全体的な流れは、次のようになります。

  1. 在職中に私傷病による休業が始まり、連続3日間の待期を完成させる
    └ 有給休暇や公休日も含め、暦日で3日間連続して労務不能であることが必要です。
  2. 医師の診断・証明を受ける
    └ 傷病手当金支給申請書の「療養担当者意見欄」に、傷病名および労務不能期間について医師の記載を受けます。
  3. 在職中の分について、会社から事業主証明を受ける
    └ 勤務状況・賃金支払状況を記載したうえで、会社経由で健康保険へ申請します。
  4. 退職日を含め、労務不能が継続していることを確認する
    └ 退職日に出勤がないこと、退職日においても医師が労務不能と認めていることが必要です。
  5. 退職後の分についても、一定期間ごとに申請を継続する
    └ 退職後の申請は、原則として本人が直接、加入していた健康保険へ提出します。申請書の「事業主記入欄」は、対象期間に在職日が含まれなければ空欄で差し支えない様式もあります。
退職後は、在職中と比較して会社との書類のやり取りに時間を要することがよくあります。
退職前に申請書の様式を入手し、記載方法と今後の申請サイクルを共有しておくことが、受給漏れや申請遅延を防ぐうえで重要です。

よくある質問

Q. 退職後に初めて病気になった場合でも、傷病手当金は受給できますか?

退職後に新たに発生した傷病については、退職前に被保険者としての資格を有していた期間に傷病手当金の支給要件を満たしていないため、資格喪失後の継続給付の対象にはなりません。
退職後に新たな病気やけがで働けなくなった場合は、雇用保険の傷病手当(求職申込後に一定期間働けない場合の給付)など、別の制度の対象となる可能性を検討することになります。

Q. パートやアルバイトでも退職後の傷病手当金の対象になりますか?

雇用形態にかかわらず、健康保険の被保険者として加入していたかどうかが基準です。
パート・アルバイトであっても、所定労働時間・日数などの要件を満たし、健康保険に加入していた場合には、他の要件を満たせば退職後の継続給付の対象となり得ます。

Q. 退職後の傷病手当金はいつまで受けられますか?

退職後の継続給付分も含め、最初に傷病手当金の支給を受けた日(支給開始日)から通算1年6か月が上限です。退職日から数えて1年6か月ではありません。
また、退職後に一度でも「労務可能」と判断される期間が生じた場合には、その時点で支給は終了し、同じ傷病について退職後に再度支給を再開することはできません。

Q. 在職中に老齢厚生年金を受給している従業員が退職し、傷病手当金の継続給付を受ける場合、どうなりますか?

在職中は原則として老齢厚生年金と傷病手当金の双方を受給できますが、退職後に継続給付を受ける段階では、老齢厚生年金等の年金額と傷病手当金との間で調整が行われます。
前述のとおり、年金額の360分の1が傷病手当金の日額以上であれば傷病手当金は支給されず、下回る場合はその差額が支給されます。

Q. 会社が社会保険料を滞納している場合でも、退職後の傷病手当金は支給されますか?

健康保険料の納付義務は事業主と被保険者にありますが、保険料の滞納を理由として、要件を満たす被保険者の傷病手当金が不支給となることは原則ありません。
ただし、長期滞納により事業所自体の適用が取り消されるなど、特殊な事案では状況が変わる可能性がありますので、個別事案については加入保険者に確認が必要です。

退職前の確認が重要です

退職後の傷病手当金は、退職日までの加入状況・休業状況・医師の証明の有無によって受給可否が大きく変わります。
可能な範囲で、在職中に支給額の目安を把握し、退職日・待期完成・申請準備を整理しておくことで、従業員・会社双方のトラブルを防ぎやすくなります。

※計算結果はあくまで目安です。最終的な支給可否・金額は、加入している健康保険(協会けんぽ・各健康保険組合等)の審査結果によります。

傷病手当金のポイントまとめ

まとめ

退職後でも傷病手当金は、一定の条件を満たしていれば受給できます。特に次のポイントは必ず押さえておく必要があります。

  • 退職日の前日までに継続して1年以上の健康保険の被保険者期間があること
  • 退職日(資格喪失日)において、傷病手当金の受給要件(私傷病・労務不能・賃金支払の状況等)を満たしていること
  • 在職中に待期3日が完成していること
  • 退職日と同一の傷病で、退職後も労務不能が継続していること
  • 最初の支給開始日から通算1年6か月以内であること

とくに退職日は、短時間の出勤や待期の未完成など、些細な事情で結果が大きく変わることがあります。
「退職後に申請すればよい」と考えるのではなく、退職前の段階で要件を満たしているかどうかを確認し、必要な申請準備を進めておくことが重要です。

監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士)
本記事は、厚生労働省および全国健康保険協会(協会けんぽ)の公表情報等をもとに、一般的な取扱いを整理したものです。
具体的な取扱いは、加入している健康保険(協会けんぽ・各健康保険組合・共済組合等)の給付規約や運用により異なる場合がありますので、最新情報は必ず各保険者の案内もあわせてご確認ください。

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