社会保険適用拡大(51人以上企業)の実務対応|該当者の洗い出しと保険料シミュレーション

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社会保険適用拡大(51人以上企業)の実務対応:該当者の洗い出しと保険料シミュレーション

社会保険適用拡大(51人以上企業)の実務対応:該当者の洗い出しと保険料シミュレーション

植本労務管理事務所 監修(社会保険労務士)

社会保険適用拡大(51人以上企業)

2024年10月以降、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業(特定適用事業所)では、短時間労働者に対する社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用範囲がさらに拡大しました。
これにより、これまで社会保険の加入対象外であったパート・アルバイト等の従業員も加入対象となり、企業の社会保険料負担や人件費管理に大きな影響が生じます。

本記事では、適用拡大の法的な概要と、対象者の洗い出し・社会保険料シミュレーションの進め方を実務担当者向けに整理しています。
この記事を参考にしていただくことで、「自社が特定適用事業所に該当するか」「どの従業員が加入対象か」「会社負担の増加額はどの程度か」を自社のデータに即して把握しやすくなります。

ポイント:適用拡大は、単なるコスト増ではなく、従業員の保障を充実させる制度改正でもあります。
早期に影響を把握し、人件費計画・雇用戦略に組み込んでおくことが重要です。

📊 社会保険料の増額分を試算

特定適用事業所(厚生年金保険の被保険者数51人以上)に該当する企業向けに、対象者ごとの月額・年間の会社負担分を自動計算。追加負担の目安を把握して、人件費計画にご活用ください。

社会保険適用拡大とは何か

社会保険の適用拡大とは、フルタイムの従業員だけでなく、一定の要件を満たした短時間労働者にも健康保険・厚生年金保険の加入を広げる制度です。
従来は、週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上でないと加入対象とならないケースが多くありましたが、一定規模以上の企業(特定適用事業所)では、4分の3未満でも要件を満たせば加入対象となります。

特定適用事業所では、新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者が増えるため、会社負担分の社会保険料(健康保険・厚生年金保険)が増加します。
従業員1人あたりで見ると、健康保険・厚生年金保険に雇用保険等も含めたトータルの法定福利費として、給与の15〜18%前後となるケースも多く、規模によっては年間で相応の金額となります。

制度を正しく理解せずに運用すると、適用漏れによる追徴保険料や、配偶者の扶養に入っている従業員からの問い合わせ対応が増えるなど、実務負荷も高まります。早めに自社の状況を整理し、対象者の洗い出しとコスト試算を行っておくことが重要です。

特定適用事業所とは? ― 「51人以上」の正しい見方

適用拡大の対象となるかどうかは、単純な従業員数ではなく、「厚生年金保険の被保険者数」が基準です。
法令上、次のように整理されています。

  • 対象となる企業規模:厚生年金保険の被保険者数が、12か月のうち6か月以上、51人以上と見込まれる会社
  • カウントの単位
    ・法人:同一の法人番号を有するすべての適用事業所の被保険者数を合算
    ・個人事業所:適用事業所ごとにカウント
  • カウントに含めない人
    ・適用拡大の対象となる短時間労働者(週20時間以上などの要件を満たすパート・アルバイト)
    ・70歳以上で健康保険のみに加入している従業員

社内で「従業員数は50名程度だが、厚生年金の被保険者数としてはどうか」「支店も含めると51人を超えそう」などのケースが多いため、毎月末時点で厚生年金保険の被保険者数を確認し、11〜12か月分を一覧で管理しておくと、該当有無を判断しやすくなります。

短時間労働者が社会保険に加入する4つの要件

特定適用事業所に該当した企業では、パート・アルバイトなどの短時間労働者であっても、次の4つすべての要件を満たす場合、健康保険・厚生年金保険の加入対象となります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 継続して2か月を超えて雇用される見込みがある
  • 1か月あたりの賃金が88,000円以上(年収約106万円以上)
  • 学生ではない(ただし、休学中・夜間・通信制等は加入対象となる場合があります)

ここでいう「月額賃金」には、残業代や臨時の賞与、結婚手当などの一時金は含めません。
また、加入の可否は原則として雇用契約上の所定労働時間・所定賃金で判断します。労働者の希望によって「加入する/しない」を選択する制度ではなく、要件を満たした場合は会社として資格取得の手続を行う必要があります。

🔎 対象者ごとの社会保険料を確認

対象となる短時間労働者の月収・年齢・勤務形態などを入力することで、会社負担分と本人負担分の概算を算出できます。特定適用事業所への該当前後の比較にもご利用いただけます。

経営者・人事が押さえるべき3つのポイント

ポイント1:対象者の洗い出しを徹底する

まずは、自社が特定適用事業所に該当するかどうか、また今後該当する見込みがあるかを確認します。そのうえで、短時間労働者のうち、4要件を満たす(または満たす可能性がある)従業員をリストアップします。

  • 厚生年金保険の被保険者数の推移(直近12か月分)を一覧化する
  • パート・アルバイト等の名簿を作成し、週所定労働時間・月額賃金・雇用見込みを整理する
  • 週20時間以上・月額88,000円以上・2か月超の雇用見込み・学生でない、の4要件に照らして対象者候補にマーキングする
  • 対象者候補には早めに説明・面談を行い、誤解や不安を減らす

なお、厚生年金保険の被保険者数が51人未満で特定適用事業所に該当しない場合であっても、労使合意により「任意特定適用事業所」として適用拡大を行うことも可能です。その場合も、対象者の洗い出し方法は基本的に同じです。

ポイント2:会社負担額をシミュレーションしてコストを把握する

対象者が把握できたら、1人あたり・全体の会社負担額を概算します。社会保険料は以下のポイントを押さえて計算すると整理しやすくなります。

  • 健康保険・厚生年金保険(適用拡大の対象)の会社負担分を中心に試算する
  • 雇用保険・労災保険など、他の法定福利費も含めたトータル人件費の変化もあわせて確認する
  • 標準報酬月額の等級により保険料が決まるため、月給・手当の構成や賞与の有無も整理しておく
  • 複数のシナリオ(採用計画や労働時間の変更等)で比較し、中期的な人件費計画に反映する

シミュレーションはあくまで概算ですので、最終的な保険料は標準報酬月額や年度更新の状況等を踏まえて確認し、必要に応じて給与・人件費予算と整合をとっていくことが望ましいといえます。

ポイント3:社内フローを整備し、漏れや遅れを防ぐ

適用拡大の対応は一度きりではなく、採用・労働条件変更・退職の都度発生する継続業務です。社内フローを明確にしておくことで、手続漏れや遅延を防ぐことができます。

  • 対象者の判定から資格取得届の提出までのタイムラインを文書化する
  • 管理職や店舗責任者にも、社会保険の加入要件とフローを共有し、現場での判断を統一する
  • 給与システム・勤怠システムで「週20時間以上」「月額88,000円以上」などの条件を自動チェックできないか確認する
  • 厚生年金保険の被保険者数が51人を下回った場合の扱い(不該当届の提出要否や短時間労働者の資格喪失届)についても、あらかじめ整理しておく

実務で使えるチェックリスト

以下の流れで対応すると、漏れなく進めやすくなります。

  1. 厚生年金保険の被保険者数(短時間労働者・70歳以上の健康保険のみ加入者を除く)の推移を、法人全体または事業所単位で整理する
  2. 自社が特定適用事業所に該当するか、または今後12か月のうち6か月以上51人以上となる見込みがあるかを判断する
  3. 対象となる短時間労働者の一覧を作成(氏名・雇用形態・週所定労働時間・月額賃金・雇用見込み・学生区分)
  4. 4要件(週20時間以上/月額88,000円以上/2か月超の雇用見込み/学生でない)に該当するかを確認し、対象者を特定する
  5. 対象者ごとに会社負担分・従業員負担分の社会保険料をシミュレーションする
  6. 対象者への個別説明・社内通知を行い、加入時期・保険料負担・将来の年金・給付の概要などを共有する
  7. 資格取得届・被保険者区分変更届・二以上事業所勤務届など、必要な手続を期限内に行う
  8. 給与・会計システムに反映し、控除漏れ・仕訳漏れがないかを確認する
実務ワンポイント

「加入対象者の追加=コスト増」と捉えるだけでなく、従業員の保障充実や離職防止、人材定着といった効果も含めて総合的に判断することが重要です。適用範囲の拡大に合わせて、人件費全体のバランスや雇用区分の設計を見直すきっかけとすることもできます。

FAQ(よくある質問)

Q1. 適用拡大で必ず社会保険に加入しなければならない人は? ▾
A1. 特定適用事業所(厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業)で働く短時間労働者のうち、次の4つの要件をすべて満たす方は、健康保険・厚生年金保険に加入する必要があります。
・週の所定労働時間が20時間以上
・継続して2か月を超えて雇用される見込みがある
・1か月あたりの賃金が88,000円以上である
・学生ではない(休学中・夜間・通信制等は加入対象となる場合があります)
なお、労働者ごとの希望で加入・非加入を選択することはできず、要件を満たした場合には会社として資格取得の手続を行う必要があります。
Q2. シミュレーションだけでコスト計算は十分ですか? ▾
A2. シミュレーションは、適用拡大による社会保険料の増加額を概算するうえで有効な手段です。ただし、実際の保険料は、標準報酬月額や賞与の支給状況、年度の保険料率、複数事業所勤務の有無などにより変動します。
そのため、最終的な金額を確定する際には、給与・賞与・労働時間の実績や今後の人員計画も踏まえたうえで、給与計算システムの設定や算定基礎届・月額変更届の結果などを確認することが望ましいといえます。
Q3. 手続きの期限や注意点は? ▾
A3. 新たに社会保険の加入対象となる従業員が発生した場合、資格取得日は原則として「要件を満たした日」となります。届出の期限は、協会けんぽ管掌の場合、原則として資格取得日から5日以内とされていますが、実務上は、少なくとも該当月の翌月10日までには手続を完了しておくと、給与計算や保険料納付との整合がとりやすくなります。
また、特定適用事業所に該当した際には、「特定適用事業所該当届」の提出が必要です。厚生年金保険の被保険者数が51人を下回った場合でも、自動的に不該当となるわけではなく、「特定適用事業所不該当届」と、短時間労働者の資格喪失届の手続が必要となります。

監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士)

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