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退職後の生活費は失業手当がカギ|退職給付金との組み合わせ方
監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士)
退職後の生活費についての相談では、「退職金があるので、しばらくは生活できるはず」「失業手当は手続きが大変そうなので詳しく見ていない」といった声が少なくありません。ただ、退職給付金(退職金)は本来「老後・将来の長期資金」であり、退職直後の生活費は、できるだけ雇用保険の失業手当でカバーするのが基本的な考え方です。本稿では、人事・労務担当者が従業員へ説明する場面を想定し、退職給付金と失業手当の役割の違いと、退職後1〜2年の生活費をどう組み立てるかを整理します。
1. 退職給付金と失業手当の役割分担
まず、退職給付金と失業手当が、それぞれどのような制度で、どのような役割を持っているのかを整理しておくことが重要です。
| 項目 | 退職給付金(退職金) | 失業手当(雇用保険の基本手当) |
|---|---|---|
| 制度の性格 | 会社が任意に設ける退職時の給付制度(就業規則・退職金規程による) | 雇用保険法に基づく公的な保険給付(求職者給付の一種) |
| 主な役割 | 老後・将来の大きな支出に備える長期資金 | 離職後の一定期間、生活費の一部を補う短期のつなぎ資金 |
| 給付主体 | 会社(または退職金共済・企業年金等) | 国(雇用保険) |
| 支給タイミング | 原則退職時に一括(または年金形式) | 離職後にハローワークで求職申込みを行い、一定期間ごとに支給 |
| 老後資金との関係 | 老後生活費・医療介護・住宅関連など、長期間の支出を支える核となる資金 | 老後資金ではなく、「退職から再就職まで」の生活費補填が目的 |
従業員向けには、「退職金はなるべく老後に残すお金」「失業手当は退職直後の生活費を支える保険給付」という軸で説明しておくと、両者を混同せずに考えてもらいやすくなります。
2. 退職後の生活費を考えるときの3つの数字
退職後1〜2年の生活費をイメージしてもらうには、少なくとも次の3点を数字にしてもらうことが有用です。
- ① 退職後1〜2年の「毎月の生活費」(家賃・食費・社会保険料・税金など)
- ② 退職給付金のうち「生活費に回してよい」と考える額
- ③ 失業手当として見込まれる受給総額(おおよその月額 × 給付月数)
「②+③」を毎月の生活費で割ることで、「退職給付金の一部と失業手当で、何か月分の生活費を賄えそうか」という目安を共有しやすくなります。
3. 失業手当が退職後の生活費を支える仕組み
3-1. 受給の基本的な枠組み
一般被保険者(原則65歳未満)が離職し、「失業の状態」となった場合、離職票をもってハローワークで求職申込みを行い、受給資格の決定を受けます。その後、7日間の待期期間を経て、離職理由等により定まる給付制限の有無・期間を踏まえながら、4週間ごとの失業認定を受けて基本手当が支給される流れです。
自己都合離職の場合の給付制限(月数)や、受給期間(原則、離職日の翌日から1年間)など、詳細な取扱いは制度改正等もあり得るため、常に最新の公的情報の確認が前提となります。
3-2. 月あたりの支給額の水準感
正確な基本手当日額は、離職前6か月の賃金総額を180で割った「賃金日額」に給付率(おおむね45〜80%)を乗じ、さらに年齢区分ごとの上限・下限を反映して算定されますが、退職面談の場では、月収ベースの「水準感」を共有する程度が現実的です。
| 離職前の平均月収(額面・賞与除く) | 月あたりの基本手当受給額の目安 |
|---|---|
| 15万円程度 | 約11万円 |
| 20万円程度 | 約13.5万円(60〜64歳は約13万円) |
| 30万円程度 | 約16.5万円(60〜64歳は約13.5万円) |
実際の支給額は、離職票に記載された賃金情報等に基づき、所轄ハローワークで個別に決定されます。企業側では「おおよそこの水準」といった目安の共有にとどめることが適切です。
3-3. 給付日数と「何か月分の生活費になるか」
失業手当の所定給付日数は、被保険者期間や離職理由・年齢によって変わりますが、一般的な自己都合退職(特定受給資格者等以外)の場合、おおよそ次のイメージになります。
| 雇用保険の被保険者期間 | 所定給付日数(全年齢・一般的な離職理由) |
|---|---|
| 1年未満 | 90日(約3か月分) |
| 1年以上5年未満 | 90日(約3か月分) |
| 5年以上10年未満 | 90日(約3か月分) |
| 10年以上20年未満 | 120日(約4か月分) |
| 20年以上 | 150日(約5か月分) |
倒産・解雇等の会社都合にあたる場合や、一定の有期契約満了に該当する場合などは、所定給付日数が長くなる取扱いがあります。離職理由や被保険者期間ごとの詳細は、必ず公的な最新資料で確認しておく必要があります。
4. 退職給付金と失業手当をどう組み合わせるか
4-1. 退職給付金を「2つの箱」に分ける考え方
従業員に説明する際は、退職給付金を次の2つの「箱」に分けて考えてもらうと整理しやすくなります。
- 箱A:老後・将来用として、原則手を付けない長期資金
- 箱B:退職後1〜2年程度の生活費や再就職までのつなぎとして使ってよい短期資金
ここに失業手当(短期資金)を加え、「箱B+失業手当」で退職後の生活費をどこまで賄えるかを試算する、という流れで話を進めると、退職後の資金計画を具体化しやすくなります。
4-2. モデルケースで見る組み合わせイメージ
イメージをつかむため、以下のような前提で簡易シミュレーションを行います。
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 年齢 | 45歳 |
| 離職前の平均月収 | 額面25万円(賞与除く) |
| 退職給付金 | 300万円支給 |
| 雇用保険の被保険者期間 | 15年(自己都合退職を想定) |
| 所定給付日数 | 120日(約4か月分) |
| 退職後の毎月の生活費 | 20万円(家賃・生活費・社会保険料・税金等を含む) |
月収25万円の場合、先ほどの表から、失業手当の月あたり受給額は20万円と30万円の中間程度、すなわちおおよそ15万円前後とみることができます。この水準で4か月受給すると、受給総額は約60万円です。
- 失業手当(概算):約15万円 × 約4か月 = 約60万円
- 退職給付金:300万円
両者を合わせると約360万円となり、これを毎月20万円の生活費で割ると、単純計算で約18か月分の生活費に相当します。ただし、退職給付金全額を箱B(短期資金)として扱う前提は現実的ではなく、老後用の箱Aをどの程度確保するかがポイントになります。
例えば退職給付金300万円のうち200万円を箱A(老後資金)として確保し、残り100万円を箱B(短期資金)として生活費に充てるとします。この場合、箱B100万円と失業手当約60万円の合計160万円を生活費20万円で割ると、退職後約8か月分の生活費をカバーできる、という説明が可能です。
4-3. 年代別の組み合わせ例
退職面談等で年代ごとのイメージを示す際には、次のような簡易パターンが参考になります(いずれも概算です)。
| ケース | 前提条件(例) | 生活費への充当イメージ |
|---|---|---|
| 30代前半・勤続10年 |
・年齢:35歳 ・平均月収:22万円 ・退職給付金:150万円 ・所定給付日数:90日(約3か月) ・生活費:月18万円 |
・失業手当:月約14万円×3か月=約42万円 ・退職給付金:うち100万円を箱B(短期資金)に充当 ・合計:約142万円 → 約7.9か月分の生活費 |
| 50代半ば・勤続25年 |
・年齢:55歳 ・平均月収:30万円 ・退職給付金:600万円 ・所定給付日数:180日(約6か月) ・生活費:月25万円 |
・失業手当:月約16.5万円×6か月=約99万円 ・退職給付金:うち200万円を箱Bに充当 ・合計:約299万円 → 約12か月分の生活費 |
| 60歳・定年退職 |
・年齢:60歳 ・平均月収:28万円 ・退職給付金:500万円 ・所定給付日数:150日(約5か月) ・生活費:月23万円 |
・失業手当:月約14.6万円×5か月=約73万円 ・退職給付金:うち150万円を箱Bに充当 ・合計:約223万円 → 約9.7か月分の生活費 |
定年退職者(60〜64歳)については、基本手当の受給期間を延長できる制度などもあり、年金受給開始時期や再就職の見込みと併せて説明する必要があります。詳細な要件等は、必ず最新の公的情報に基づいて確認してください。
5. 退職後1〜2年の生活費設計で押さえておきたい事項
5-1. 受給期間「原則1年」を意識する
基本手当の受給期間は、原則として離職日の翌日から1年間とされています。この期間内に求職申込みを行い、所定給付日数分の支給を受ける必要があります。手続きが遅れれば遅れるほど、実際に受給できる日数が減る可能性があるため、退職前の段階で従業員に周知しておくことが重要です。
妊娠・出産・育児・病気・負傷・家族の介護等、やむを得ない理由で30日以上働けない状態が続く場合には、受給期間の延長が認められる制度もありますが、「給付日数そのものが増えるわけではない」点に注意が必要です。
5-2. 定年退職前後の扱い
退職日が65歳到達前か後かにより、「基本手当」か「高年齢求職者給付金(一時金)」かが異なります。退職後の生活費設計では、年金受給の開始時期や再就職の可能性と併せて、「どの給付を、どのタイミングで、どれくらい受けられる見込みか」を整理してから、退職給付金の箱A・箱Bの配分を検討することが適切です。
5-3. 説明時に触れておきたいポイント
- 退職金をすべて生活費にしない前提
退職金のうち「老後資金として最低◯割は残す」といった考え方を共有し、長期資金と短期資金を意識的に分けて説明する。 - 失業手当は保険としての権利
在職中に保険料を負担してきた結果として、要件を満たせば受けられる公的給付であり、「受給しなくてもよいオマケ」ではないことを伝える。 - 離職理由の重要性
倒産・解雇等か自己都合かといった離職理由により、給付制限や所定給付日数が変わるため、離職票の記載が実態に合うよう社内で事実関係を整理する。 - 退職後1〜2年と老後資金を分けて話す
「退職直後の1〜2年」と「65歳以降の老後」の2段階で資金計画を考える前提を共有し、そのうえで退職給付金と失業手当の組み合わせ方を説明する。
退職前に確認しておきたい「簡易シミュレーション」3ステップ
- 退職給付金の見込み額を確認する
自社の退職金規程に基づき、退職理由別の支給水準を整理し、本人に概算を伝えられるようにしておく。 - 失業手当の概算額・給付日数を把握する
平均月収と被保険者期間から、「月◯万円×◯か月程度」という水準感を示し、具体額はハローワークで確認してもらう前提とする。 - 退職後の月次出費を洗い出す
家賃・ローン・社会保険料・税金・教育費等を含めた毎月の出費を整理し、「箱B(退職金のうち短期資金)+失業手当」を月次出費で割って、生活可能月数を本人に把握してもらう。
企業側では、制度の枠組みと考え方・水準感の共有にとどめ、個々の給付額や受給可否については、所轄ハローワーク等の公的機関の案内に基づいて判断してもらうことが前提となります。
6. まとめ:退職後の生活費は「失業手当+退職給付金の一部」で考える
退職後の生活費を検討する際には、「退職給付金の額」だけを見るのではなく、「退職給付金のうち生活費に回す部分(箱B)」と「失業手当の受給総額」、そして「退職後1〜2年の毎月の出費」の3点を数字で確認してもらうことが重要です。
企業としては、退職給付金を老後を見据えた長期資金、失業手当を退職直後から再就職までのつなぎ資金と位置づけたうえで、両者を組み合わせた退職後1〜2年の生活費設計を従業員と共有できるようにしておくことが、長期的な生活の安定につながるといえます。
参考・公式情報
監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士) — 本記事は、退職給付金と雇用保険の失業手当に関する一般的な制度趣旨および考え方を説明するものであり、具体的な受給要件・給付額・給付日数は個別事情や制度改正等により異なります。詳細は、所轄ハローワーク等の公的機関の案内をご確認ください。
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