社労士が本音で語る|失業手当は「知っている人だけ得をする制度」です

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社労士が本音で語る|失業手当は「知っている人だけ得をする制度」です
社労士が本音で語る|失業手当は「知っている人だけ得をする制度」です

社労士が本音で語る|失業手当は「知っている人だけ得をする制度」です

監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士)

同じように退職しても、「失業手当をフルに活用できる人」と「ほとんど受け取れない人」に分かれます。現場を見ていると、その差は「運」ではなく、制度を知っているかどうか、退職前後にどれだけ準備しているかによるところが大きいと感じます。本記事では、労務担当者の方にも押さえておいていただきたい「知っている人だけ得をするポイント」と、社員の不利益を防ぐうえで注意したい点を整理します。

まずは「自社の退職者なら、どれくらいもらえるのか」を把握

労務担当の立場からは、「社員が退職した後、おおよそどれくらいの期間・金額の失業手当が想定されるのか」をイメージしておくと、退職前面談や相談対応がしやすくなります。詳細な受給要件や日数は最終的にハローワークが判断しますが、概算シミュレーションは情報提供の一助になります。

なぜ「知っている人だけ得をする制度」なのか

失業手当(基本手当)は、法律に基づく公的な制度ですが、次のような理由から、制度理解の有無によって結果に大きな差が出ます。

  • 受給要件・給付制限・受給期間・延長・起業特例など、ルールが多く複雑で、「知らないまま退職」すると本来受けられるはずの給付を逃しやすい。
  • 退職理由の整理や離職票の記載、退職前後のタイミング管理(求職申込日・起業日・教育訓練の開始日など)で、給付内容が変わる場面がある。
  • 「受給中の就労」や「不正受給」のルールを知らないと、悪意はなくても結果的に損失やペナルティを招き得る。

制度そのものは「誰でも使える仕組み」ですが、実務上は「知っている人ほどきちんと受け取り、知らない人ほど取りこぼしが多い」という構造になっています。労務担当としては、従業員が不利益を被らないよう、最低限のポイントを社内で共有しておくことが望ましいところです。

押さえておきたい「制度の全体像」

まず、失業手当を含む雇用保険の失業等給付には、対象者の年齢や雇用形態に応じて複数の給付があります。

区分 主な給付 対象となる人のイメージ
一般被保険者(65歳未満) 基本手当・技能習得手当・傷病手当 など いわゆる通常の雇用保険加入社員(パート含む)。退職後に失業手当として受け取るのは主にこの「基本手当」。
高年齢被保険者(65歳以上) 高年齢求職者給付金 65歳以上で雇用保険に加入していた方。基本手当ではなく、一時金として受給。
短期雇用特例被保険者 特例一時金 季節的業務などの短期契約を繰り返す方。
日雇労働被保険者 日雇労働求職者給付金 日々雇い入れられる日雇い労働者。

貴社の一般的な正社員・有期契約社員・パートタイマーの大半は、「65歳未満の一般被保険者」として基本手当の対象となります。65歳以上で退職される方については、別制度(高年齢求職者給付金)になる点にご留意ください。

知っている人だけが押さえている「5つのポイント」

現場で差がつきやすいポイントを、労務担当の視点から5つに整理します。

1. 「受給資格を満たせるか」のギリギリライン

一般的な自己都合退職の場合、離職前2年間に「賃金支払いの基礎日数が11日以上(または80時間以上)の月」が通算12か月以上あることが、基本手当の受給資格の目安となります。倒産・解雇などの特定受給資格者等では、直近1年間に通算6か月以上で資格が認められる場合があります。

有期契約社員や短時間勤務者については、「あと1か月働けば12か月に届く」ケースも少なくありません。退職時期の調整で受給資格の有無が変わり得るため、退職相談の際には、雇用保険の加入月数を社内で確認しておくと、本人への情報提供がしやすくなります。

2. 「自己都合」と「会社都合」でここまで変わる

離職理由により、次のような違いが生じます。

  • 受給資格を得るために必要な被保険者期間(月数)の違い(2年で12か月か、1年で6か月か)。
  • 所定給付日数(もらえる最大日数)が手厚くなるかどうか。
  • 待期期間後に給付制限(一定期間の無支給)がかかるかどうか。

離職理由は離職票に記載され、最終的にはハローワークが判断しますが、会社側の記載内容は重要な判断材料になります。本人の実態から見て明らかに会社都合に該当するのに「自己都合」として扱ってしまうと、従業員の不利益やトラブルにつながりかねませんので、就業実態と整合した記載が必要です。

3. 「受給期間1年」の壁と、延長できるケース

基本手当を受け取れる期間(受給期間)は、離職日の翌日から原則1年間です。この1年を過ぎると、所定給付日数が残っていても受給できません。ここを意識しているかどうかで、「もらい切れるかどうか」が変わります。

一方で、次のような事情がある場合には、この1年を後ろに延ばせる制度があります。

  • 病気・けが、不妊治療などで長期間働けない。
  • 妊娠・出産・育児(3歳未満)・親族の介護など、やむを得ない事情がある。
  • 定年退職後、しばらく休養してから求職活動を始めたい。
  • 離職後に起業・自営に専念し、その後うまくいかなかった場合に備えたい。

これらはすべて「申請が必要な制度」であり、自動延長はされません。退職面談の段階で、今後の予定(育児・介護・治療・起業など)を本人がある程度把握していれば、「延長や起業特例を検討できる余地がある」ことだけでも情報提供しておくと、その後の選択肢が広がります。

4. 受給中の「働き方」で損をしない・不正受給にならない

失業手当受給中であっても、短時間のアルバイトや業務委託、自営準備などで収入を得ること自体は制度上想定されています。ただし、次のルールを理解していないと、結果的に損をしたり、不正受給と判断されるリスクがあります。

  • 1日の労働時間が4時間未満:原則「内職・手伝い」と扱われ、収入額に応じてその日の基本手当が減額され得る。
  • 1日の労働時間が4時間以上:原則「就労・就職」と扱われ、その日の基本手当は支給対象外。
  • 週20時間以上・31日以上の雇用見込みのある就労:雇用保険の被保険者となるため、「就職」とみなされ、以後の失業手当は支給されない。

名称(業務委託・フリーランス・お手伝いなど)や収入の多寡にかかわらず、「働いた事実」は失業認定申告書での申告が必須です。申告せずに受給すると、不正受給として、以後の支給停止や最大3倍相当の返還・納付を命じられる可能性があります。会社としても、退職者から相談を受けた際には、「必ずハローワークに申告するように」とお伝えいただくのが安全です。

5. 「教育訓練」「職業訓練」との組み合わせ

自己都合退職の場合、待期期間(7日)に続いて給付制限(原則1か月、一定の場合は3か月)がかかるのが一般的ですが、一定の教育訓練や公共職業訓練等を利用する場合は、給付制限がかからない・短縮される取扱いがあります。また、教育訓練給付金と組み合わせることで、スキルアップと生活費の両面をある程度支えながら再出発する道筋も描きやすくなります。

どの講座・訓練が対象となるか、退職日や受講開始日との関係で適用されるかどうかは、法改正や通達で細かく変わる部分です。実務上は、「自己都合退職で、早期に訓練受講を検討している方がいる場合は、ハローワークで給付制限の扱いを必ず確認してもらう」ことが重要です。

労務担当者として社員からよく聞かれる質問と押さえどころ

「退職したら自動的にもらえるんですよね?」

失業手当は、「離職した」「雇用保険に一定期間加入していた」だけでは支給されません。退職後に、本人がハローワークで求職申込と受給手続きを行い、「働く意思と能力があり、実際に求職活動をしている失業の状態」であることが条件です。受給開始までには、待期期間や、自己都合の場合の給付制限期間もあります。

「退職後しばらく休んでから手続きしても大丈夫ですか?」

離職日の翌日から1年以内であれば、途中から受給手続きをすることは可能ですが、受給期間自体は1年のままです。退職後に長く休んでから手続きすると、所定給付日数を使い切る前に1年が過ぎてしまい、残日数が消滅する場合があります。定年退職や長期療養など、一部のケースでは受給期間の延長が認められるため、該当しそうな場合は早めにハローワークで確認してもらう必要があります。

「65歳過ぎて辞める社員の失業手当はどうなりますか?」

退職日が65歳到達前か到達後かで、給付の種類が変わります。65歳到達前に離職する場合は一般被保険者として基本手当の対象、65歳到達後に離職する場合は高年齢被保険者として高年齢求職者給付金(一時金)の対象となります。社内での案内時には、この区分を踏まえて説明する必要があります。

「退職前面談」で最低限伝えておきたいこと

退職者との面談や案内文の中で、次の3点だけでも触れておくと、その後のトラブルや不利益をかなり防ぐことができます。

  • 雇用保険の失業手当は、本人がハローワークで手続きしなければ支給されないこと。
  • 受給できるかどうか・何日分か・いつからかは、離職理由や加入期間などをもとにハローワークが判断すること。
  • 病気・育児・介護・起業などの事情がある場合は、受給期間の延長や特例を利用できる可能性があること。

「知っていれば防げた」よくあるロス・トラブル例

  • 有期契約社員が「11か月」で自己都合退職し、その後の契約更新がなかったため、雇用保険の受給資格に届かないまま終わってしまった。
  • 病気療養のために退職した社員が、受給期間の延長を知らずに1年を過ぎてから求職申込を行い、所定給付日数を全く受けられなかった。
  • 退職後すぐに個人事業を始め、その後うまくいかずに廃業したが、「事業開始等による受給期間特例」を知らず、離職後1年を過ぎてから基本手当を申請しようとして断られた。
  • 受給中に短期アルバイトをしていた退職者が、「収入が少額だから申告不要だと思っていた」と申告しなかった結果、不正受給と認定され、返還と制裁金を課された。

こうした事例は、制度を少し知っていれば防げるものばかりです。会社としてすべてを説明し切ることは難しいですが、「必ずハローワークで確認を」「働いた事実は必ず申告を」といった基本メッセージだけでも周知しておくと、安全性が高まります。

参考・公式リンク

制度を「社内でどこまで説明するか」を決めておく

失業手当は、知っているかどうかで結果が変わる制度です。会社としてどこまで案内するかは方針次第ですが、「最低限伝えておくべきこと」を整理しておくことで、退職者との行き違いや後日のトラブルを減らすことができます。必要に応じて、自社の退職パターン(自己都合・契約満了・定年・解雇など)に応じた社内向け説明資料を整備しておくと、担当者間での説明のばらつきも抑えられます。

監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士) — 本記事は、雇用保険の失業等給付制度に関する一般的な解説を目的としており、具体的な受給資格・給付額・受給期間・延長や特例の適用については、所轄ハローワークにて最新の情報をご確認ください。

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