退職給付金は本当に怪しい?結論からわかる失業手当との違いと申請先
監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士)
「退職給付金って怪しいのでは?」という不安の声は非常に多いです。
結論から言うと、退職給付金(会社の退職金制度)そのものは、法令に反するものではありません。
ただし、仕組みや他の制度との関係を理解しないまま受け取ると、「思っていた金額と違う」「失業手当が減るのではないか」といった誤解やトラブルにつながる可能性があります。
本記事では、退職給付金と失業手当の違い、なぜ「怪しい」と感じられやすいのか、実際の申請先や手続きの流れまでを、できるだけ平易な言葉で整理してお伝えします。
なお、本記事は日本の現行法令(退職金に関する一般原則・雇用保険法等)を前提とした一般的な解説です。
まずは失業手当の概算を確認
退職給付金(会社の退職金)とは別に、雇用保険の失業手当(基本手当)がどの程度見込めるかを把握しておくと、退職後の資金計画を立てやすくなります。
【結論】退職給付金は「制度として」怪しいのか?
ここでいう「退職給付金」は、一般的に会社が独自に設ける退職金制度や退職一時金・退職年金などを幅広く指しています。
まず押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- 退職金の支給は法律上の義務ではありません。(退職金を必ず支給しなければならないという法律はありません)
- 会社が退職金制度を設けている場合は、就業規則や退職金規程などの社内ルールに従って支給されます。
- 制度の有無・金額・計算方法・支給条件は会社ごとに異なり、同じ業界でもかなり差が出ます。
このように、退職給付金は「会社が任意に設ける福利厚生・賃金後払い的な制度」であり、存在そのものが違法・違反ということは通常ありません。
一方で、次のような事情から、従業員側が「なんだか怪しい」「よくわからない」と感じやすいのも事実です。
- 会社ごとに制度内容が大きく異なり、他社と比較しにくい
- 計算式が複雑で、自分で金額を検算しにくい
- 就業規則や退職金規程が十分に周知されておらず、説明を受けるタイミングも退職直前・退職時に集中しがち
- 「退職金を受け取ると失業手当が減るのではないか」といった誤解が根強い
制度の有無・内容・変更のルールなどは、各社の規程を確認する必要があります。
退職給付金と失業手当の基本的な違い
退職給付金と失業手当は、似たタイミング(退職時〜退職後)に関係するため混同されがちですが、制度の性格・根拠法令・支給主体がまったく異なります。
まずは全体像を整理します。
| 項目 | 退職給付金(会社の退職金) | 失業手当(雇用保険の基本手当) |
|---|---|---|
| 支給元 | 会社(または退職金共済等の機構) | 国(雇用保険制度を通じて支給) |
| 制度の根拠 | 会社の就業規則・退職金規程・退職金共済契約など | 雇用保険法等の法律に基づく公的制度 |
| 性格 | 長年の勤務に対する功労の後払い賃金・企業年金的性格 | 失業期間中の生活保障と早期再就職の支援を目的とした給付 |
| 支給条件 |
・会社が退職金制度を設けていること ・就業規則・退職金規程に定められた支給要件(勤続年数、退職事由など)を満たすこと |
・雇用保険の被保険者であったこと ・離職前の一定期間、被保険者期間があること(原則2年のうち12か月以上など) ・離職後「失業」の状態にあること(求職の意思・能力があり職に就いていないこと) |
| 申請先 | 在職していた会社(人事・総務部門等)や退職金共済の窓口 | 住所地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク) |
| 税金の扱い | 「退職所得」として、退職所得控除等の有利な課税(原則、源泉徴収) | 「非課税所得」として所得税・住民税は課されない |
| 関係性 | 完全に別制度(退職金の有無・金額により失業手当の支給要件・金額が変動することは原則ありません) | 同時期に受給しても原則として問題ありません |
退職給付金が「怪しい」と感じられる主な理由
実務上、従業員の方から「うちの退職給付金は怪しいのでは?」といった相談が出る典型的なパターンは、次のようなものです。
- 就業規則や退職金規程の存在や内容が十分に説明されていない
- 規程には支給率の表が書いてあるが、実際の計算ロジックや控除項目の説明が不十分
- 過去に制度変更(計算方法の改定・ポイント制への移行など)が行われたが、不利益変更の説明や経過措置の説明が不十分と感じられている
- 「会社の判断で支給しない場合がある」といった、裁量の幅が大きすぎる条項があり、不安に感じる
- 退職金の支払時期が明確でなく、退職後数か月経っても支給時期の説明がない
退職金制度は法律で一律に定められていないため、会社側の設計の仕方・説明の仕方によって透明性に差が出やすい領域です。
他方で、就業規則や退職金規程は、労働契約の一部を構成しうる重要なルールであり、周知義務(労働基準法第106条)もあります。
そのため、従業員から疑念を持たれないためには、社内説明資料の整備や、退職前面談などでの丁寧な説明が実務上は非常に重要になります。
また、退職金規程を一方的に不利益に変更する場合には、労働契約法第10条に基づく「変更の合理性」が求められます(不利益の程度・必要性・代替案の有無・説明状況などの総合判断)。
申請先の違いと実務上の流れ
「どこに、何を、いつ出せばよいか」が混同されやすいポイントです。
退職給付金と失業手当の申請先・基本的な流れを整理します。
- 退職給付金(会社の退職金) → 在職していた会社(人事・総務)へ申請・確認
- 失業手当(基本手当) → 退職後に住所地を管轄するハローワークで手続き
実務上の一般的な時系列イメージは以下のとおりです。
- 退職前〜退職時:会社から退職金規程の説明・概算額の案内、退職金の受取口座・税務書類(「退職所得の受給に関する申告書」等)の案内・提出
- 退職後(1〜2週間程度目安):会社から雇用保険の離職票(1・2)の交付、退職金の支給(規程に支払時期の定めがある場合はその期日)
- 退職後:離職票等が届き次第、ハローワークで求職申込・受給資格決定・雇用保険説明会などの手続きを行う
退職給付金と失業手当の手続き窓口を混同してしまうと、離職票の受取りやハローワークでの手続きが遅れ、結果として失業手当の受給開始も遅れることになります。
退職者向け案内文書などでは、「退職金に関する社内窓口」と「雇用保険に関する外部窓口(ハローワーク)」を明確に分けて記載しておくことが望ましいと言えます。
失業手当(基本手当)の計算の基本
ここでは、退職給付金と混同されやすい「失業手当(雇用保険の基本手当)」の、ごく基本的な計算イメージのみを示します。
実際の金額や上限・下限は、毎年8月1日に改定されることがあるため、必ず最新の厚生労働省資料でご確認ください。
一般的な考え方は次のとおりです。
- 賃金日額 = 原則として「離職前6か月の賃金総額(賞与等を除く)」 ÷ 180
- 基本手当日額 = 賃金日額 × 給付率(おおむね45〜80%の範囲で、賃金水準・年齢により決定)
下記は理解のためのシンプルなイメージです。
| 離職前6か月の給与合計 | 賃金日額(概算) | 基本手当日額のイメージ |
|---|---|---|
| 90万円 | 約5,000円 | 約2,500〜4,000円前後(給付率による) |
| 180万円 | 約10,000円 | 約4,500〜8,000円前後(上限に留意) |
※実際の計算は、年齢区分ごとに上限・下限や細かな計算式が定められており、「賃金日額×一律60%」とはなっていません。
※最新の上限額・下限額や具体的な計算式は、厚生労働省の公式資料をご確認ください。
参考:厚生労働省「雇用保険の基本手当日額の上限・下限」
また、給付日数(何日分支給されるか)は、離職理由・年齢・雇用保険の被保険者であった期間によって変わります。
詳細は、厚生労働省およびハローワークの公式リーフレットをご確認いただく必要があります。
・厚生労働省「離職されたみなさまへ(基本手当のご案内)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000143385.html
・ハローワークインターネットサービス「雇用保険制度」
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/index.html
退職給付金と失業手当の「よくある誤解」
現場で特に多い誤解と、その正しい理解をまとめます。
- 「退職給付金(退職金)が多いと、失業手当が減る(もしくは出ない)」 → 誤り
退職金の有無や金額は、雇用保険の基本手当の受給資格・基本手当日額の計算には原則として影響しません。
雇用保険の基本手当は、あくまで「離職前の賃金」「被保険者期間」「離職理由」「失業の状態」などに基づき決定されます。
- 「退職給付金と失業手当は同じ公的な制度で、まとめて申請できる」 → 誤り
両者は制度の性格も窓口も異なる別制度です。
退職給付金は会社(または退職金共済等)に確認・請求するものであり、失業手当はハローワークで手続きする公的給付です。
申請書も手続きも完全に別々に行う必要があります。
- 「会社が『退職給付金』という名前で案内しているが、実は失業手当を代理申請してくれている」 → 通常はそのようなことはありません
雇用保険の基本手当は、原則として本人がハローワークで求職申込をし、受給資格を決定してもらう必要があります。
会社が退職金と一体で「まとめて手続きしておきます」といった誤解を招く説明をすると、従業員が雇用保険の手続きを失念し、結果として給付を受け損ねるおそれがあります。
改めて整理すると、退職給付金と失業手当は完全に別制度であり、適切な要件を満たしていれば同時期に両方を受給することが可能です。
退職給付金の税金の基本(「税後」で考える重要性)
退職給付金・退職金を受け取る際に、従業員から質問が多いのが「税金がどれくらい引かれるのか」という点です。ここでは、概要のみ整理します。
- 会社の退職金は、原則として「退職所得」として課税されます。
- 退職所得には、勤続年数に応じた「退職所得控除額」が認められており、多くの場合、同じ金額を給与で受け取る場合よりも税負担は軽くなります。
- 課税の際には、受給者が会社へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出することで、源泉徴収により適正な税額が差し引かれます。
退職所得控除や退職所得の計算方法についての詳細は、国税庁の最新情報をご確認ください。
参考:国税庁タックスアンサー「退職金を受け取ったとき」
実務上は、「退職金の額面」ではなく、「税引後に実際に手元に残る金額」で生活設計を行うことが重要になります。
また、退職金が分割で支給される企業年金・確定拠出年金等の場合は、取り扱いが異なる部分もありますので、制度ごとの説明資料を確認していただく必要があります。
失業手当の受給手続きの基本的な流れ
退職給付金との混同を避けるためにも、失業手当(基本手当)の大まかな手続きの流れを押さえておくことが有益です。以下は一般的な流れのイメージです。
- 離職・退職
在職中の会社を退職します。会社は雇用保険の資格喪失手続き等を行い、離職票(1・2)を作成します。 - 離職票等の受け取り
退職後、おおむね数日〜2週間程度で会社から離職票が交付されます(会社から郵送されることが多いです)。 - ハローワークで求職申込・受給資格決定
住所地を管轄するハローワークに、離職票・本人確認書類・マイナンバー確認書類・写真・通帳などを持参し、求職申込及び受給資格の決定手続きを行います。 - 待期期間(7日間)
受給資格決定日から、失業の状態が通算して7日間経過するまでは、基本手当は支給されません(待期)。 - (自己都合退職等の場合の給付制限)
正当な理由のない自己都合退職などの場合、待期満了後に一定期間(令和7年4月1日以降の退職の場合は原則1か月、一定の条件では3か月)の給付制限が設けられる場合があります。 - 失業認定・支給
原則4週間ごとにハローワークで「失業認定」を受け、認定された日数分の基本手当が指定口座に振り込まれます。
※詳しい必要書類や手続きの詳細は、ハローワークインターネットサービスおよび所轄ハローワークでご確認ください。
参考:ハローワークインターネットサービス「基本手当」
退職給付金・失業手当をめぐる社労士からの実務的アドバイス
企業の労務担当者として、退職者対応の場面で特に押さえておきたいポイントを整理します。
- 退職金は「制度の有無」と「規程の内容」をまず確認する
・自社に退職金制度があるかどうか(就業規則・退職金規程・退職金共済契約等)を明確にしておくことが前提です。
・ある場合は、支給要件(勤続年数・退職事由・在籍区分など)と計算方法・支給時期・税務手続きの流れを、退職予定者にもわかりやすい資料で説明できるように整理しておくことが望ましいといえます。 - 退職金制度の変更は「合理性」と「周知」が重要
・退職金規程の不利益変更(支給率の引下げ・ポイント制への移行など)を行った場合、労働契約法第10条上の「変更の合理性」が問題となり得ます。
・変更理由や必要性、経過措置、説明会の実施状況などを含め、社内で経緯を整理・記録しておくことが有用です。 - 失業手当の説明は「制度紹介」にとどめる
・雇用保険の基本手当は公的制度であり、最終判断はハローワークが行います。
・企業としては、「離職票の交付」「手続きの案内」「公的サイトの紹介」を丁寧に行い、個別の受給可否や金額を断定しないように説明することが安全です。 - 退職後の資金計画は「退職金(税後)+失業手当+その他公的給付」の全体像で説明する
・従業員の不安の多くは「退職後にどの程度の資金がいつ入るかが見えない」ことに起因します。
・可能な範囲で、「退職金(手取り見込み)」「失業手当の受給開始時期と期間」「健康保険・年金・住民税などの支出」の大枠を案内できると、従業員の納得感が高まりやすくなります。
退職後のお金を「全体」で把握する
退職給付金(退職金)のみならず、雇用保険の失業手当や社会保険・税の負担まで含めて把握することで、退職者の不安は軽減されます。
自社の退職金規程と公的制度の概要を併せて整理しておくと、退職者への説明がスムーズになります。
参考・公式窓口
本記事の内容は、日本の法令および公的機関の公表情報をもとにした一般的な解説です。
実際の退職金の支給条件・金額・制度変更の有無等は、各社の就業規則・退職金規程や退職金共済契約によって大きく異なります。
また、失業手当(基本手当)の受給資格や具体的な支給額・給付制限等については、個別の事情により取り扱いが異なる場合がありますので、最終的な判断は所轄ハローワーク・税務署等の公的窓口でご確認ください。
コメント