相談で一番多い誤解|退職給付金と失業手当は別制度です 監修:植本労務管理事務所

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相談で一番多い誤解退職給付金と失業手当は別制度です
相談で一番多い誤解|退職給付金と失業手当は別制度です

相談で一番多い誤解|退職給付金と失業手当は別制度です

監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士)

退職給付金(退職金)を受け取る場合に「失業手当が減るのでは?」と心配する方が非常に多いです。しかし、制度上は退職給付金と雇用保険の基本手当は別の制度であり、計算方法も異なります。本稿では、よくある誤解の理由と正しい見方、会社が退職者に説明するときのポイントを実務的に整理します。

まずは「概算」を出してみましょう

直近6か月の給与合計(賞与・退職金を除く)をもとに賃金日額→基本手当日額を概算できます。退職金は別建てで税後手取りを確認すると、退職後の資金計画が立てやすくなります。

雇用保険の公式情報:
雇用保険制度のご案内(厚生労働省)
失業給付の概要:
離職されたみなさまへ<雇用保険の基本手当のご案内>(厚生労働省リーフレット)

結論(端的に)

  • 退職給付金は失業手当の計算対象ではない
    基本手当の賃金日額は、離職前6か月間の賃金(賞与・退職金を除く)をもとに算定されます。退職金自体が賃金日額に入ることはありません。
  • 誤解の原因は「合算して生活設計を考えるから」
    退職金と失業手当を一緒に見て「生活費をどれだけ賄えるか」を検討するため、退職金があると手当が減ると誤解されやすいのです。
  • 手続きと税金は別に注意が必要
    退職金は退職所得扱いで税務上の特例が適用されます。税後の手取りを見て合算することが実務上のポイントです。雇用保険の基本手当などの失業給付は所得税・住民税ともに非課税ですが、退職金は課税対象となり、退職所得控除や1/2課税などの優遇措置が適用されます。

※法令や通達の改正、受給開始日・離職理由による取り扱いの差異があり得ます。本記事は一般的な取扱いを説明したものであり、最終判断は所轄ハローワーク・税務署および各自治体等の案内・判断を必ずご確認ください。

制度の整理:退職給付金と失業手当の位置づけ

まず、両制度の位置づけと法的な前提を整理しておくと、従業員への説明がしやすくなります。

  • 退職給付金(退職金)
    ・法律で支給が義務付けられているものではなく、会社が任意に制度を設けている場合に限り支給されます。
    ・支給の有無・額・算定方法・支給時期などは、就業規則や退職金規程、中小企業退職金共済制度(中退共)など、各社のルールによって定まります。
    ・制度があるにもかかわらず、その規程に従った支給を行わない場合は、労働基準法第24条などとの関係で問題となる可能性があります。
    ・税務上は「退職所得」として扱われ、退職所得控除や1/2課税などの優遇措置が適用されます。
  • 雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)
    ・雇用保険法に基づく公的給付であり、支給主体は国(雇用保険)です。
    ・受給要件(被保険者期間・離職理由・年齢等)を満たし、求職の申込みをして「失業の状態」にある場合に支給されます。
    ・基本手当日額は、離職前6か月間の「賃金」(賞与・退職金等を除く)から計算され、退職金は一切反映されません。
    ・基本手当などの失業給付は非課税所得として扱われ、所得税・住民税ともに課税されません。

なぜ誤解が起きるのか(典型パターン)

  1. 用語の混同
    「退職金」「失業給付」「補償」「一時金」などの言葉が混ざり、すべて同じ「退職時にもらえるお金」と誤解されがちです。実際には、企業内制度に基づく退職金と、公的な雇用保険給付とは別々の根拠・ロジックで支給されています。
  2. 合算して生活設計をする実務的事情
    退職者の多くは、退職金と失業手当・年金・貯蓄などを合算して「いつまで生活費を賄えるか」を検討します。このとき、「退職金が多いから失業手当は減らされるのでは」と連想しやすいことが誤解の一因となります。
  3. 受給開始のタイミング(待期・給付制限)を見落とす
    自己都合退職等の場合、求職申込みと受給資格決定の後に7日間の待期期間があり、その上で一定期間(原則1か月~3か月)の給付制限が付くことがあります。退職金は退職後比較的早期に支給されることが多いため、「退職金をもらっている間は失業手当が出ない」=「退職金のせいで遅れている」と誤解されやすくなりますが、実際には退職金の有無とは関係なく、離職理由等に応じた一律の取扱いです。
  4. 退職金制度が任意制度であることへの理解不足
    退職金は法律上の義務ではなく、企業ごとの制度設計によって有無・水準が大きく異なります。この点が十分に理解されていないと、「国の失業手当と会社の退職金で全体が調整されるのではないか」といったイメージが生まれやすくなります。

制度上の違い:実務で押さえるポイント

  • 支給主体の違い
    ・退職金:会社自体、または中小企業退職金共済制度などの共済機構等から支給されます。
    ・基本手当:雇用保険(国)が支給主体です。会社は離職票の発行等の手続きのみを行い、給付額はハローワークが決定します。
  • 計算方法の違い
    ・退職金:勤続年数、退職時の等級・役職、退職事由(自己都合・会社都合など)に応じて、就業規則や退職金規程に基づき算定されます。中退共など外部制度を利用している場合は、その規程に従います。
    ・基本手当:離職前6か月間に支払われた賃金総額(賞与・退職金などを除く)を180で割った「賃金日額」がベースとなり、年齢区分と賃金水準に応じた給付率(概ね45~80%の範囲)を乗じて「基本手当日額」が決まります。退職金の額や有無は、この計算には一切影響しません。
  • 税務上の取扱いの違い
    ・退職金:所得税法上の「退職所得」として扱われ、「退職所得控除」や2分の1課税などの優遇を受けます。会社は「退職所得の受給に関する申告書」を基に源泉徴収を行い、「退職所得の源泉徴収票」を交付します。
    ・基本手当:雇用保険の失業給付は、所得税法上「非課税所得」とされており、所得税・住民税とも課税されません。そのため、基本手当の受給のみを理由として確定申告が必要になることは通常ありません(他に課税所得がある場合は別途検討が必要です)。
  • 法的性質の違い
    ・退職金:あくまで会社と労働者との労働契約に付随する給付であり、就業規則等の定めと運用実態を通じて労働条件の一部(賃金の後払い的性格)と評価されます。そのため、不利益変更時には労働契約法第10条上の「合理性」が問題になります。
    ・基本手当:雇用保険法に基づく社会保障的給付であり、要件や金額は法律・政省令で一律に定められており、個々の企業が恣意的に変更することはできません。

賃金日額と基本手当の計算イメージ

基本手当の計算は、詳細には年齢区分ごとの上限額・下限額、賃金水準による給付率の変動などがありますが、退職者に説明する際は、概算のイメージだけでも共有しておくと理解が進みます。

賃金日額(概算)= 直近6か月の給与合計 ÷ 180
基本手当日額(概算)= 賃金日額 × 給付率(目安:賃金水準にもよりますが、おおむね50〜80%の範囲)

直近6か月合計(賞与・退職金を除く) 賃金日額(÷180) 給付率(目安) 基本手当日額(概算)
¥900,000(平均月15万円) ¥5,000 約60% ¥3,000
¥1,800,000(平均月30万円) ¥10,000 約60% ¥6,000

※実際の給付率や上限額・下限額は、年齢や賃金水準、支給開始時期により異なります。正式な金額は、所轄ハローワークでの算定結果をご確認ください。

退職給付金と失業手当を合算して説明するときのポイント

実務では、退職面談やセカンドキャリア面談の場面で、退職金と失業手当を合算した「退職後1年間の資金イメージ」を示して欲しいという要望が出ることがあります。その際には、以下の点に注意して説明すると誤解を防ぎやすくなります。

  1. 税後手取りで比較する
    退職金は退職所得として課税され、退職所得控除や1/2課税などの優遇がある一方、基本手当は非課税です。額面だけを合算すると「思ったより手取りが違う」という誤解を生むため、可能な範囲で源泉所得税控除後の退職金手取り額と、非課税の基本手当見込み額を別々に示したうえで、合計の「生活資金のめど」として説明することが望ましいです。
  2. 受給開始の遅れ(待期・給付制限)の影響を明示する
    自己都合退職の場合、待期7日間に加え、原則1か月〜3か月の給付制限期間があるため、退職直後は失業手当が支給されません。この「空白期間」を退職金の一部でどの程度カバーできるかを示しておくと、退職者の不安軽減につながります。ただし、給付制限の有無・期間は離職理由の区分(特定受給資格者・特定理由離職者か否か等)により異なるため、最終的な判定はハローワークで行われる旨を必ず添えてください。
  3. 制度が別建てであることを繰り返し明示する
    説明資料には、「退職金は会社又は共済制度からの給付」「失業手当は雇用保険からの給付」であり、それぞれ計算根拠・税務上の扱い・支給手続きが全く異なることを明記し、「退職金の額によって失業手当の額が増減することはない」というメッセージを繰り返し強調することが有効です。
  4. 退職金制度が任意制度であることも補足する
    自社に退職金制度がある場合は、その制度が会社独自のルールに基づくものであり、法定給付ではないことを簡潔に触れておくと、「退職金があるから失業手当が少なくなる/なくなる」といったイメージをやわらげることができます。

実務で会社が説明するときのチェックリスト

  • 自社の退職金規程(支給要件・算定方法・減額・不支給事由・支給時期)を事前に整理し、退職者に分かりやすく説明できるようにしておく。
  • 退職金がある場合・ない場合で、退職者の生活設計への影響を簡潔に説明できるよう、社内で想定問答を用意しておく。
  • 賃金日額の計算方法(離職前6か月の賃金合計÷180)と、計算に含まれないもの(賞与・退職金など)を図表等で示し、「退職金は失業手当の計算に入らない」ことを明示する。
  • 待期7日・給付制限(自己都合・懲戒解雇等)や所定給付日数、受給期間(原則1年間)などの概要を、厚生労働省やハローワークの公式リーフレットを前提に説明する。
  • 退職金の税後手取りの目安(退職所得控除の考え方・源泉徴収の仕組みなど)について、一般的なポイントを伝えつつ、個別の税額は税務署や税の専門家への確認が必要である旨を明記する。
  • 雇用保険の具体的な給付額・給付日数・給付制限の有無は、あくまでハローワークが離職票等に基づいて決定するため、自社では「制度の概要」と「想定される影響」を説明するにとどまることを伝える。
  • 退職金制度の内容を将来変更する場合には、労働契約法第10条に基づく「合理性」や、労働者への周知手続きが必要となることを社内で共有しておく。

会社向け:従業員説明用テンプレ(簡潔)

「退職金は、当社の就業規則・退職金規程(または中退共などの制度)に基づいて会社から別途支払われるもので、雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)は、離職前6か月間の賃金に基づき、ハローワークで算定される公的給付です。退職金の有無や金額によって、雇用保険の給付額が自動的に増減することはありません。 ただし、自己都合退職などの場合には、雇用保険上の待期期間や給付制限期間があり、支給開始時期が遅れることがあります。また、退職金には退職所得としての課税があり、一方で失業手当は非課税となるなど、税務上の取り扱いも異なります。 具体的な給付額・給付日数・給付開始時期は、所轄ハローワークでの審査・決定が最終となりますので、必要に応じてハローワークで個別にご確認ください。」

退職金制度そのものに関する留意点(社内向け)

本稿の主題は「退職金と失業手当の関係性」ですが、退職金制度自体の運用も、退職時の説明に直結します。概要だけ整理しておきます。

  • 退職金制度の有無
    退職金は法定給付ではないため、制度を設けるかどうかは会社の裁量です。ただし、制度を設けている場合には、その内容が就業規則や退職金規程に明文化され、労働者に周知されていることが前提となります。
  • 支給条件と不支給・減額事由
    勤続年数や退職事由(自己都合・会社都合・懲戒解雇等)によって支給率を変えることは一般的ですが、「会社が適当と認めた場合のみ支給する」といった恣意的な裁量を残す定めは、裁判実務上問題となる可能性があります。また、懲戒解雇時の全額不支給などについては、「永年の勤続の功を抹消するほどの背信行為」が認められるかなど、個別事情に応じた慎重な検討が必要です。
  • 規程変更時の合理性
    退職金規程を不利益に変更する場合には、変更内容の合理性(労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、代償措置の有無、労使交渉の経過など)と、労働者への周知が重要となります。労働基準監督署への就業規則届出は形式的な手続であり、それだけで民事的な有効性が担保されるわけではありません。
  • 支払時期と時効
    退職金の支払時期は、就業規則や退職金規程で「退職後○か月以内」などと定めておくのが一般的です。通常の賃金とは異なり、退職金については労働基準法第23条の「7日以内の支払」は直接は適用されませんが、規程で決めた支払期日は守る必要があります。退職金の請求権の時効は原則5年とされているため、長期未払いがないよう社内管理をしておくことが望まれます。

退職者の不安を解消するために

退職金と失業手当は、いずれも退職後の生活を支える重要な制度ですが、根拠法令や計算の仕組みが異なるため、混同されやすい面があります。社内であらかじめ説明用の資料や想定問答集を整備し、退職面談の場で「退職金」と「雇用保険給付」の区別を丁寧に説明することで、退職者の不安を大きく軽減できます。

退職金の見込額や失業手当の概算額、受給開始時期などを簡易に試算したうえで、「当社から支給されるもの」と「公的制度から支給されるもの」を切り分けて整理し、必要に応じてハローワークや税務署等の公式窓口をご案内ください。

参考・公式窓口(確認先)

本記事は、執筆時点で公表されている法令・通達・公的資料に基づき、一般的な実務の場面を念頭に置いて作成したガイドです。最終的な給付可否・給付日数・金額および退職金の税務処理は、個別の事情や法改正等により異なる場合があります。確定した金額や取扱いは、所轄ハローワーク・税務署・各自治体等の案内・判断が優先されます。

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