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【保存版】正当な理由のある自己都合とは?失業保険が有利になるケース一覧(2025年版)
植本労務管理事務所 監修(社会保険労務士)
自己都合退職でも、雇用保険の制度上「正当な理由」があると判断された場合には、給付制限がかからないなど、受給上有利に取り扱われることがあります。本記事は2025年時点の制度および公表されている運用を踏まえ、どのような事情が“正当な理由”として扱われる可能性があるのか、具体的な事例と証拠の残し方、ハローワークでの手続きのポイントを、社労士の視点から整理したものです。退職前に知っておくと損をしにくいポイントをまとめています。
※本文は一般的な説明であり、実際の取り扱いは個々の事情と資料に基づきハローワークが判断します。最新の制度や詳細な要件については、ハローワーク等の公的情報もあわせてご確認ください。
目次(この記事で得られること)
- 「正当な理由のある自己都合」とは何か
- 代表的な正当な理由のケース一覧(事例別)
- 証拠の残し方と実務対応(やるべき行動)
- ハローワークでの審査ポイントと注意点
- よくある誤解とQ&A
- 行動プラン(退職前にやること)
1. 「正当な理由のある自己都合」とは何か
離職理由が本人の事情による「自己都合」であっても、やむを得ない事情(正当な理由)があるとハローワークで判断された場合には、制度上、給付制限がかからない、いわゆる「特定理由離職者」として取り扱われるなど、受給上有利になる場合があります。ただし、該当するかどうかは、個々の事情と提出資料を踏まえてハローワークが総合的に判断します。
なお、ここで説明するのはあくまで「離職理由による取り扱い」の違いであり、実際に基本手当を受給するためには、離職前の被保険者期間や「失業の状態」にあることなど、別途定められた受給要件を満たしている必要があります。
2. 代表的な「正当な理由」ケース一覧(事例別)
(A)健康・病気で退職せざるを得なかった場合
例:慢性的な疾病や急性の重い疾患で通勤・勤務が困難になった場合。医師の診断書や休職記録が重要です。診断書に「現在の業務(または通勤)を続けることが困難」といった趣旨が具体的に記載されていると、事情の説明資料として有用です。
(B)配偶者の転勤・扶養移動で通勤が著しく困難になった場合
例:配偶者の海外転勤や国内転勤に帯同するため転居が不可避となり、結果として従前の職場への通勤が客観的に困難になった場合などが考えられます。転居証明や配偶者の勤務先からの通知書が証拠になります。
(C)家族の介護・育児のために辞めざるを得なかった場合
例:親族が要介護状態となり常時の介護が必要になった、家族の長期入院により家庭の事情が急変し離職を余儀なくされた場合など。要介護認定の通知や医療機関の診断書・証明書が有用です。
(D)職場の著しい安全配慮義務違反(ハラスメント・パワハラ)
例:継続的なパワハラやセクハラで心身に不調をきたし、就労継続が困難になった場合。記録(メールやチャット)、第三者の証言、診断書などを揃えることで、離職理由について「解雇・退職勧奨に近いもの」や「正当な理由のある自己都合」と判断される可能性があります。どの区分(会社都合に該当するか、正当な理由のある自己都合に該当するか)に当たるかは、個別事情に応じてハローワークが判断します。
(E)労働条件の一方的かつ重大な変更(賃金カット・勤務地変更など)
例:合意のない大幅な賃下げや、通勤が著しく困難となる単身赴任を強いる配置転換など。就業規則や労働条件通知書、会社からの通告書が重要です。このような事案では、「賃金の大幅な低下」「長時間の時間外労働」などに該当するかどうかにより、会社都合に相当する区分と判断される可能性もありますが、具体的な条件(低下率や時間外労働時間等)を満たしているかどうかを含め、個別に判断されます。
(F)有期契約の更新が希望していたにもかかわらず更新されなかった場合(特定理由離職)
有期契約で更新を希望していたのに更新されなかった場合は、「特定理由離職者」として取り扱われる可能性があります。このうち、離職日が一定の期間内(例:2009年3月31日から2027年3月31日までの間)にある場合など、要件を満たすと、所定給付日数が会社都合に該当する場合(特定受給資格者)と同様の水準となる取り扱いが行われることがあります。ただし、具体的にどの区分・給付日数に該当するかは、契約内容や通算契約期間、離職日などを踏まえ、ハローワークが個別に判断します。
3. 証拠の残し方と実務対応(やるべき行動)
「事情が正当である」と判断してもらうためには、客観的な資料が極めて重要です。以下のようなものを可能な範囲で準備しておきましょう。
- 医師の診断書や治療記録を取得(健康理由がある場合は極めて重要)
- 会社とのやり取りを記録・保存(メール、チャット、通告書、面談のメモ)
- 第三者の証言を確保(同僚・上司の発言が証言できる場合)
- 公的書類を準備(介護認定、配偶者の転勤通知、住民票など)
- ハローワークへ速やかに相談(事前相談で必要書類の確認を)
Tip:口頭だけで済ませず、可能な限り書面やログを残す習慣をつけてください。証拠が整っているほど審査はスムーズです。
4. ハローワークでの審査ポイントと対応のコツ
ハローワークは提出資料と事情の整合性を見て判断します。審査では次の点が重視されます。
- 離職に至る経緯が具体的か(日時・状況・頻度)
- 客観的証拠があるか(書面・診断書・ログ等)
- 本人が他に選択肢を持っていたか(転職、休職、配置転換の申請など)
【対応のコツ】ハローワーク相談時には、最重要の証拠(診断書、メールログ、第三者の証言)をまず提示すること。担当者に事情を整理したメモを渡すと伝わりやすくなります。
5. よくある誤解(短めに)
- 誤解:病気で辞めれば自動的に給付制限は免除される → 実務では診断書や症状の内容・程度など、客観的な資料が重要です。
- 誤解:口頭の退職理由だけで十分 → 口頭のみは証拠不十分になることが多いです。
- 誤解:離職票は会社の一言で決まる → ハローワークが本人の申立内容や資料も踏まえて最終的な判断を行います。
6. 実務テンプレ:ハローワークで出すときの要点メモ(書式例)
相談時に持参する「要点メモ(A4 1枚)」の例:
- 氏名・生年月日・連絡先
- 離職日・離職の経緯(箇条書きで日時・場所・発言)
- 主張したい点(例:「長期のパワハラにより診断書を取得し離職を余儀なくされた」)
- 添付資料一覧(診断書・メールコピー・第三者氏名など)
7. 行動プラン:退職前にやるべきこと(優先順位)
- 重要度★ ★ ★:医師の診断書(健康理由がある場合)をすぐ取得
- 重要度★ ★:メール・チャット・指示書など会社との記録を保存
- 重要度★:同僚や関係者の証言を確保(可能なら日時・証言内容を記録)
- 重要度★:ハローワークへ事前相談(必要書類の確認)
- 重要度☆:労働相談窓口等の公的な相談機関の情報を確認
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