退職金は一時金、失業手当は生活保障|金額を具体的に確認

監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士)

退職金は企業が任意に設ける制度に基づき支給される「一時金」、失業手当(雇用保険の基本手当)は失業中の生活を一定程度補うための「公的な生活保障」です。両者は性質も根拠法も異なります。本記事では、退職金制度の基本、雇用保険の基本手当の仕組み(賃金日額の出し方・基本手当日額の算定・総受給額の目安)を整理し、退職前後の実務チェックポイントを金額ベースで確認できるようにまとめます。

まず結論(短く)

退職金は「会社ごとの制度に基づき支給される一時金」、失業手当(基本手当)は「雇用保険法に基づく公的給付」として役割が異なります。退職後の資金計画では、退職金と失業手当の双方を金額で把握し、生活費とまとまった支出にどう充てるかを分けて設計することが重要です。

退職金については、法律上「必ず支払わなければならない制度」ではなく、就業規則・退職金規程・労働契約などに定めがある場合に支給義務が発生します。制度の有無・支給額・支給要件は、それぞれの企業ごとのルールによります。一方、失業手当(基本手当)は雇用保険法にもとづく給付であり、離職前の雇用保険の加入状況や賃金水準・離職理由などに従って、所轄ハローワークが受給資格・給付日数・金額を決定します。

退職金制度の基本(法的な位置づけ)

退職金は、法令で一律に支給が義務付けられているものではありません。退職金を支給するかどうか、誰にどのような基準で支給するかは、原則として企業が任意に制度を設計することができます。ただし、就業規則や退職金規程に「退職金を支給する」と定めた場合、その定めが労働条件となり、規程に従った支給義務が生じます。

退職金の支給方法・時期についても法令上の一律の定めはありませんが、退職金規程により具体的に支払義務を負う場合には、労働基準法第24条の賃金支払の原則(通貨払い・全額払い・直接払いなど)が適用されると解されています。実務上は、口座振込みにより一時金として支払うケースが一般的です。

制度の導入・変更・廃止については、常時10人以上の労働者がいる事業場で退職金規程を就業規則の一部として整備する場合、労働基準法第89条に基づき、所轄労働基準監督署への届出および労働者への周知が必要となります。不利益な変更(たとえば既存従業員の退職金水準の大幅な引下げなど)を行う場合には、労働契約法第10条に基づく「合理性」の有無が重要な判断要素となります。

退職金は何に充てるか(実務上の位置づけ)

退職金は、多くの企業で「長期勤続への報酬・老後資金・転職時の橋渡し資金」として位置づけられています。法的に用途の制限があるわけではありませんが、一度にまとまった金額を受け取ることが多いため、以下のような「一時的に大きな支出」に優先的に充てる設計が実務的です。

  • 引越し費用・敷金礼金・家財の購入など、住まいに関わる初期費用
  • まとまった医療費や介護費用など、臨時に発生しうる高額支出
  • 資格取得や職業訓練の費用、転職活動に伴う交通費・スーツ購入費などの再就職準備費用
  • 住宅ローン・その他ローンの一部繰上げ返済(返済条件と手元資金のバランスを踏まえて判断)

同時に、退職金は所得税法上「退職所得」として有利な税制(退職所得控除および1/2課税など)が適用される一方、毎月の生活費の全てを長期にわたって退職金だけで賄おうとすると、手元資金の枯渇リスクが高くなります。そのため、退職金はあくまで「まとまった支出や将来の生活の土台」として位置づけ、毎月の生活費は失業手当や次の収入を中心に設計する考え方が重要です。

参考:国税庁「退職金と税」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2732.htm

賃金日額と基本手当の流れ

失業手当(基本手当)の仕組みとキーワード整理

雇用保険の「失業手当」と一般に呼ばれている給付は、正式には「基本手当」です。基本手当は、離職前の賃金水準と雇用保険の被保険者期間、離職理由などをもとに以下のような流れで決まります。

  • 賃金日額:離職前6か月間に支払われた賃金総額を180で割った額(一定の上限・下限あり)
  • 基本手当日額:賃金日額に45〜80%の給付率を乗じた額(年齢区分・賃金水準に応じて変動し、上限・下限あり)
  • 所定給付日数:被保険者期間・年齢・離職理由(自己都合か会社都合か等)に応じて90〜360日などの範囲で決定
  • 受給総額の目安:基本手当日額 × 実際に支給される日数(上限は所定給付日数まで)

基本手当日額と所定給付日数は、雇用保険法および関連政省令に基づき機械的に計算されますが、最終的な受給資格や離職理由の認定は、ハローワークが事業主・離職者双方の申立内容および確認資料にもとづき判断します。自己都合・会社都合などの区分は、会社が一方的に決めるものではなく、ハローワークが最終的に判定する点に留意が必要です。

参考:厚生労働省「離職されたみなさまへ(基本手当のご案内)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000108634.html

失業手当の金額を出す(具体手順)

実際の基本手当日額はハローワークで確定されますが、概算を把握することで、退職後の生活設計が立てやすくなります。以下は、一般的な「概算の出し方」の流れです。

  1. 直近6か月の給与明細を用意し、残業代・諸手当を含む「総支給額」から雇用保険法上の賃金に含まれないものを除いた6か月分を合算する。
  2. 賃金日額(概算)= 6か月分の賃金合計 ÷ 180(※月ごとの暦日数ではなく、6か月×30日で180日として計算)。
  3. 年齢・賃金日額の水準に応じた給付率(概ね45〜80%の範囲)を乗じて、基本手当日額(概算)を算出する。
  4. 被保険者期間と離職理由から、おおよその所定給付日数(例:自己都合90〜150日、会社都合90〜330日など)を確認し、受給総額の目安を出す。

たとえば、離職前6か月の賃金合計が以下のような場合、賃金日額と概算の基本手当日額は次のようなイメージになります(給付率を便宜上60%として仮定した例です。実際の給付率は賃金水準と年齢区分に応じて異なります)。

例:直近6か月賃金合計 賃金日額(÷180) 給付率(例) 基本手当日額(概算)
¥1,080,000(平均月18万円程度) ¥6,000 60% ¥3,600
¥1,440,000(平均月24万円程度) ¥8,000 60% ¥4,800
¥1,800,000(平均月30万円程度) ¥10,000 60% ¥6,000

給付率は、賃金日額が一定水準までは80%、賃金が高くなるほど段階的に低下し、一定額を超えると50%となる仕組みです。また、基本手当日額には年齢区分ごとに上限額と共通の下限額(令和7年8月1日以降の下限は2,411円)が定められており、毎年8月1日に見直されます。詳細な算定式や上限額・下限額は、厚生労働省の最新資料をご確認ください。
参考:厚生労働省「雇用保険の基本手当日額の変更について」など

所定給付日数と受給総額のイメージ

基本手当が何日分受給できるか(所定給付日数)は、雇用保険の被保険者期間・離職時の年齢・離職理由で決まります。代表的な区分は次のとおりです(一般被保険者の場合の例。就職困難者、高年齢求職者給付金などは別建てのルールがあります)。

  • 自己都合退職など(特定受給資格者・一部の特定理由離職者以外):おおむね90〜150日
  • 倒産・解雇などの特定受給資格者、一部の特定理由離職者:年齢と被保険者期間に応じて90〜330日
  • 就職困難者(一定の障害を持つ方など):45歳未満で最大300日、45歳以上で最大360日

例えば、賃金日額が1万円・基本手当日額が6,000円程度と仮定し、所定給付日数が90日・180日の場合、受給総額のイメージは次のようになります。

想定条件 基本手当日額(概算) 所定給付日数 受給総額の目安
平均月収約30万円/自己都合退職・被保険者期間5年未満 約6,000円 90日 約54万円
平均月収約30万円/倒産・解雇などで被保険者期間10年以上 約6,000円 180日 約108万円

上記はいずれも概算の例であり、実際の所定給付日数と支給総額は、個々の離職理由・被保険者期間・年齢などにより、ハローワークで決定されます。最新の給付日数表は厚生労働省およびハローワークの公式パンフレットで確認してください。

自己都合退職時の給付制限とタイムライン

基本手当は、受給資格の決定を受けた日から「待期期間」7日間は支給されません。さらに、正当な理由がない自己都合退職などの場合には、待期期間満了後に給付制限期間が設けられます。

2025年4月1日以降に離職した一般の自己都合退職者については、原則として給付制限期間は1か月とされています(過去5年間の自己都合退職歴などにより3か月となる場合あり)。懲戒解雇や自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇の場合も、給付制限期間が3か月となる取扱いです。制度改正時期(2025年3月31日以前の離職か、4月1日以降の離職か)や細かな要件により取扱いが異なるため、個別の離職日・離職理由に応じて確認する必要があります。

したがって、自己都合退職者の場合、実際に基本手当が振り込まれ始めるまでの期間は、「退職~ハローワークでの手続き日」+「待期7日間」+「1〜3か月の給付制限期間」が目安となります。生活資金の計画を立てる際には、この期間については失業手当が入らない前提で、退職金や貯蓄での資金繰りを検討しておくことが重要です。

参考:厚生労働省「雇用保険制度の見直し(給付制限期間の短縮 等)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08280.html

実務メモ:退職前に離職理由(自己都合・会社都合・契約満了など)の整理と、退職日(離職日)の確認を行い、給付制限の有無や期間を保守的に見積もることが、退職後の資金ショートを防ぐうえで重要です。
退職金の使い分けイメージ

退職金と失業手当をどう使い分けるか(実務の考え方)

退職金と基本手当は、それぞれ性質の異なるお金です。実務上は次のように役割を分けて考えると、退職後の生活設計が整理しやすくなります。

  • 退職金(一時金): 引越し・住宅関連費・まとまった医療費・再就職に必要な資格取得費用・当面の生活予備費など、「一度にまとまって必要となる費用」や、老後資金の一部として優先的に充てる。
  • 失業手当(基本手当): 毎月の家賃・食費・光熱費・通信費など、「継続的に発生する生活費」をカバーする前提で計画し、再就職が決まるまでの生活のベースとする。
  • 合算設計: 退職金(税引後の手取り)+失業手当(総額の目安)から、月平均の生活費で割り、「何か月分の生活費を確保できているか」を把握する。そこから、再就職の目標時期や、必要に応じた支出の抑制水準を考える。

なお、退職金は税務上「退職所得」として分離課税され、他の所得よりも税負担が軽くなる一方で、雇用保険の基本手当は非課税所得として扱われます。両方の金額・入金時期を把握したうえで、国民健康保険料・住民税などの負担増も含めて、退職後1年程度のキャッシュフローを概算しておくことが望ましいといえます。

まずは失業手当(基本手当)を数値化しましょう

直近6か月の給与合計をシミュレーターに入力することで、賃金日額と基本手当日額の概算を把握できます。実際の受給資格・給付日数・金額は、所轄ハローワークが雇用保険法等に基づいて決定しますので、シミュレーターの結果はあくまで参考値としてお考えください。

退職前後に確認しておきたい実務リスト

退職金と失業手当を前提に資金計画を立てる際、退職前後で最低限確認しておきたい事項を整理すると、次のようになります。

  1. 退職金制度の有無・支給条件の確認
    就業規則・退職金規程・労働条件通知書などで、自社に退職金制度があるかどうか、支給対象者・算定方法・支給時期・不支給・減額事由などを確認します。制度がない場合は退職金は支給されません。制度がある場合には、その内容が労働条件となるため、規程に沿った算定が必要です。
  2. 退職金の支給時期・受取方法(税引後見込み)の確認
    「退職から何日後に支給されるか」「一時金か年金形式か」「口座振込み日」は、就業規則・退職金規程・社内案内文などで確認します。あわせて、退職所得控除額・源泉徴収税額を踏まえた「手取り見込み額」を把握しておくと、生活設計がしやすくなります。
  3. 離職票の到着時期とハローワークでの申請スケジュール
    退職後、会社がハローワークに離職証明書等を提出し、ハローワークから会社経由または本人宛に「雇用保険被保険者離職票(1・2)」が発行されます。届いたら、記載内容(賃金額・離職理由など)を確認し、住所地を管轄するハローワークで求職申込みと受給資格決定の手続きを行います。
  4. 被保険者期間と想定される所定給付日数の目安
    雇用保険被保険者期間(原則として賃金支払基礎日数が11日以上ある月の通算)と、年齢・離職理由から、90日〜何日程度の給付日数になりそうかを大まかに把握します。実際の所定給付日数は、ハローワークが公式の給付日数表に基づき決定します。
  5. 国民健康保険・住民税・厚生年金保険料の切替時期と負担増の試算
    退職後は健康保険を「国民健康保険」「任意継続」「家族の被扶養者」のいずれかに切り替えることになります。また、住民税は原則として前年所得に基づき課税されるため、退職直後も一定の負担が続きます。社会保険料・税金の負担を含めた「毎月必要な最低生活費」を洗い出しておくことが重要です。
  6. 当面の生活費(1〜3か月分)の手元資金の確保
    自己都合退職の場合は、待期7日+給付制限期間(原則1か月・条件により3か月)中は基本手当が振り込まれません。この期間の生活費について、退職金・普通預金・短期で解約可能な金融資産などから、1〜3か月分程度を準備しておくと安心です。
  7. 再就職の予定・副業の有無の整理
    退職時点で転職先が内定しているか、起業予定があるか、短時間のアルバイト予定があるかにより、失業手当の受給資格や受給方法が変わり得ます。ハローワークでの手続き時には、働く予定(日数・時間・雇用形態)を正確に申告し、不正受給とならないようにする必要があります。
実務メモ:退職金は、就業規則や退職金規程に基づき算定・支給される「企業独自の制度」であり、退職金制度がない企業も少なくありません。自社の制度有無と内容を早めに確認し、退職金を前提にした生活設計になり過ぎないよう注意が必要です。
まとめイメージ

退職金と失業手当に関するよくある誤解と注意点

退職に際して、従業員の方から相談を受ける場面では、次のような誤解がしばしば見られます。社内で説明する際のポイントとして整理しておくと対応しやすくなります。

  • 「退職金は法律で必ずもらえる」
    日本の法令上、一般的な企業に対して退職金の支給を義務付ける規定はありません。就業規則・退職金規程などに退職金の定めがある場合に、その内容が労働条件として拘束力を持ちます。
  • 「退職金が多いと失業手当が減らされる」
    退職金と雇用保険の基本手当は、制度上は独立しており、原則として退職金の多寡によって基本手当の支給額や給付日数が減らされることはありません(ただし、自己都合退職か会社都合退職かなど、離職理由と雇用保険の加入状況は影響します)。
  • 「自己都合と会社都合は会社が自由に決められる」
    離職票に記載する離職理由は事業主が記入しますが、特定受給資格者・特定理由離職者に該当するかどうかの最終判断はハローワークが行います。会社が恣意的に不利な離職理由を記載した場合でも、労働者の申出と証拠に基づき、ハローワークが修正することがあります。
  • 「失業手当は申請しさえすれば自動的にずっともらえる」
    基本手当は、離職日の翌日から原則1年間の「受給期間」の中で、所定給付日数の範囲内で支給されます。4週間ごとの「失業認定日」に、求職活動状況や就労状況をハローワークに申告し、失業状態であると認定された日数分のみ支給される仕組みです。

公式情報・参考リンク

退職金制度と雇用保険の失業給付は、法改正や通達により運用が見直されることがあります。最新情報を確認する際は、必ず公的機関の情報を参照してください。

本記事は、退職金と雇用保険の基本手当に関する一般的な制度説明および資金計画上の考え方をまとめたものであり、特定の事案について法的判断を示すものではありません。最終的な給付可否・給付日数・金額、ならびに退職金の支給条件・支給額は、所轄ハローワークおよび各企業の就業規則・退職金規程等に基づき決定されます。具体的な取扱いは、必ず最新の公的資料・社内規程をご確認ください。