退職後の生活費は失業手当が鍵|受給額を今すぐチェック

監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士)

退職後の当面の生活費を守るうえで、失業手当(雇用保険の「基本手当」)は最も重要な公的支援の一つです。まずはご自身がどのくらい受給できそうかを数値で把握し、退職金・貯蓄・健康保険や年金の切替と合わせて、無理のない資金計画を作ることが重要です。

結論:まずは「受給額」と「受給期間」を数値化すること

雇用保険の基本手当は、「いくら受け取れるか(基本手当日額)」と「何日分受け取れるか(所定給付日数)」が分かれば、退職後にどの程度の期間生活費をカバーできるかが見えるようになります。

感覚的に「何とかなるだろう」と考えるのではなく、法令上のルールに基づき、受給見込み額を数値で把握したうえで、退職金や貯蓄と組み合わせて判断することが、安全に退職・転職を進めるための第一歩です。

基本手当の仕組み(前提条件の整理)

雇用保険の基本手当を受給するには、主に次の2つの条件を満たす必要があります。

  1. 失業の状態であること
    積極的に就職しようとする意思と、いつでも就職できる健康状態・環境があり、現に職に就いていない状態であることが必要です。家事専念や在学専念、自営に専念している場合などは、基本手当の対象外です。
  2. 一定以上の被保険者期間があること
    原則として「離職前2年間に、被保険者期間が通算12か月以上」必要です。
    倒産・解雇など会社都合に近い理由や、契約期間満了などやむを得ない理由で離職した場合は、「離職前1年間に6か月以上」の被保険者期間で足りる取扱いがあります。

※被保険者期間のカウント方法や、対象となる離職理由の詳細は、厚生労働省およびハローワークの公式情報をご確認ください。
参考:ハローワークインターネットサービス「雇用保険関係のQ&A」
参考:特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準

受給額の簡単チェック(3ステップ・概算)

実際の金額は、ハローワークへ提出する離職票の記載内容に基づき決定されますが、おおよその目安は次の手順で確認できます。

  1. 直近6か月の給与合計を準備する
    退職前6か月分の給与明細を用意し、「総支給額(社会保険料控除前、賞与を除く)」を合算します。
  2. 賃金日額(概算)を計算する
    賃金日額(概算) = 6か月分の給与総支給額 ÷ 180
    ※法令上も、直前6か月の賃金から「賃金日額」を算定する仕組みになっており、この180で割る方法は概算として広く用いられています。
  3. 基本手当日額(概算)を把握する
    基本手当日額(概算) = 賃金日額 × 給付率(45〜80%)
    給付率は、離職時の年齢と賃金水準に応じて変動し、賃金が低いほど給付率は高め、賃金が高いほど給付率は低めになります。また、年齢区分ごとに上限額・下限額が設定されています。

※厚生労働省の公表例では、例えば「平均して月額20万円程度」の賃金の場合、基本手当の支給額は月額約13.5万円程度(60〜64歳の場合は約13万円程度)とされています。
参考:厚生労働省・ハローワーク「失業給付(基本手当)のご案内」

賃金日額と給付の関係

給付日数の目安と「何か月暮らせるか」の考え方

基本手当の所定給付日数は、以下の要素で決まります。

  • 離職時の年齢(例:30歳未満、45歳以上60歳未満 等)
  • 雇用保険の被保険者であった期間(1年未満/1年以上5年未満 等)
  • 離職理由(自己都合に近い一般離職か、倒産・解雇などか 等)

例えば、一般的な自己都合に近い離職であれば、被保険者期間が1年以上20年未満の場合は90〜120日程度が多く、一方で会社都合に近い離職や一定の契約満了などの場合は、同じ加入年数でも所定給付日数が長くなることがあります。

※具体的な日数は、公式パンフレット等で最新の表をご確認ください。
参考:厚生労働省「離職された皆さまへ(基本手当のご案内)」PDF

概算の総受給額は、次のように考えます。

総受給額(概算) = 基本手当日額(概算) × 所定給付日数

さらに、毎月の生活費(家賃・食費・光熱費等)と比較することで、「失業手当+退職金+貯蓄」で何か月程度生活できるかのイメージを持つことができます。

受給額が分かるとできる4つのこと

  • 受給総額(概算)を把握できる
    「基本手当日額 × 所定給付日数」で、おおよその受給総額が分かり、退職後の資金計画の土台が明確になります。
  • 退職金や貯蓄と合算した「生活可能月数」を試算できる
    退職金の税引後見込み額や既存の貯蓄を合算し、毎月の必要生活費で割ることで、無収入期間に耐えられる月数を把握できます。
  • 給付開始までの「つなぎ資金」を把握できる
    待期期間や給付制限がある場合、実際の振込までにタイムラグが生じます。この間を乗り切るために必要な当座資金をあらかじめ見積もることができます。
  • 早期就職か慎重な転職活動かの方針を検討できる
    生活可能月数に余裕があれば、慎重に求人を選ぶ余地が生まれ、余裕が小さい場合は早期就職を優先するなど、現実的な方針を立てやすくなります。

まずは失業手当の概算を出してみましょう

直近6か月の給与合計を入力するだけで、賃金日額と基本手当日額のおおよその金額を把握できます(所要2〜3分)。ハローワークでの正式な計算前に、資金計画のたたき台としてご利用ください。

生活設計のイメージ

画像③:生活設計のイメージ

申請(受給手続)前に必ず確認したい5つのポイント

  1. 離職票の到着時期
    離職票(離職票-1・離職票-2)は、前職の事業所経由で交付されます。到着が遅れると、ハローワークでの受給手続きや、初回の失業認定が後ろ倒しになり、実際の支給も遅れます。退職後2週間程度経っても届かない場合は、会社やハローワークへ状況確認を行うとスムーズです。
  2. 離職理由の確認(自己都合/会社都合 等)
    離職票には離職理由が記載され、この区分により「給付制限の有無・期間」「所定給付日数」などが変わる場合があります。会社側の記載と本人の認識が異なるときは、必要に応じてハローワークが双方の主張や資料を踏まえたうえで判断する仕組みになっています。
  3. 被保険者期間の確認
    離職前の2年間(倒産・解雇等の場合は1年間)に、雇用保険の被保険者期間が要件を満たしているか確認します。短期間の勤務先も含め、複数の離職票がある場合は、すべて提出することで通算期間が正しく評価されます。
  4. 退職金の受取時期と税引後見込み
    退職金は雇用保険の受給資格そのものには通常直接影響しませんが、生活資金全体を考えるうえでは重要な要素です。受取時期と税引後の手取り見込みを確認し、失業手当と合わせた資金繰りのシミュレーションに活用します。
  5. 健康保険・年金・住民税・国保への切替時期
    退職後は、健康保険の任意継続・国民健康保険・家族の扶養など、どの制度を選択するかにより保険料水準が変わります。また、住民税は原則として前年所得に基づき課税されるため、退職後も一定額の支払いが続きます。これらの支出予定を見込んだうえで、受給額とのバランスを検討することが大切です。
実務メモ(給付制限と初回支給までの流れ):
雇用保険の基本手当は、受給手続をしてから最初の7日間は「待期期間」とされ、この間は支給されません。正当な理由がない自己都合退職の場合、この待期期間満了後に原則として1か月間の給付制限が課され、その間も基本手当は支給されない取扱いとなります(5年以内に自己都合退職が複数回ある場合などは、給付制限が3か月となる場合があります)。
実際に最初の振込が行われるのは、待期・給付制限を経て、最初の失業認定を受けた後となるため、退職から初回支給までに一定の期間を見込んだ資金計画が必要です。
なお、給付制限期間の長さや緩和措置は法改正により変動することがあるため、最新情報は必ず公式サイトやハローワークでご確認ください。
まとめイメージ

手続きの基本的な流れ

退職から受給開始までの大まかな流れは次のとおりです。

  1. 離職
    会社から離職票-1・離職票-2が交付されます。
  2. ハローワークで求職申込み・受給資格の決定
    住居地を管轄するハローワークに、離職票や本人確認書類などを持参して求職申込み・受給手続きを行います。
  3. 雇用保険説明会(初回講習)
    受給資格者証・失業認定申告書などを受け取り、今後の手続きや求職活動の進め方について説明を受けます。
  4. 待期期間(7日間)
    受給資格決定日から失業状態が通算7日間続くまでの間は、基本手当は支給されません。
  5. (自己都合等の場合)給付制限期間
    自己都合退職など一定の場合には、待期満了後、原則1か月間(条件により3か月の場合あり)の給付制限が課され、その間も基本手当は支給されません。
  6. 失業認定と基本手当の支給
    原則4週間ごとの認定日に、求職活動の状況等についてハローワークで失業認定を受け、その認定に基づき指定口座へ基本手当が振り込まれます。

参考:ハローワーク「失業給付(基本手当)の受給手続きの流れ」

よくある質問(Q&A)

QA
失業手当だけで生活できますか? 世帯構成や家賃・ローン・教育費など固定費に大きく左右されます。概算でも構いませんので「基本手当日額 × 所定給付日数」で総受給額を算出し、毎月の必要生活費と比較してみてください。足りない分については、退職金・貯蓄・配偶者の収入なども含めて、どの程度の期間なら無理なく生活できるかを検討することが重要です。
退職金があると失業手当は受給できませんか? 退職金の有無のみを理由として、雇用保険の基本手当の受給資格が否定されることは通常ありません。受給の可否は、あくまでも「失業の状態であるか」「被保険者期間が要件を満たすか」などにより判断されます。ただし、具体的な離職理由や就職予定の有無など個別事情により扱いが異なることがありますので、実際の手続きの際は必ず所轄ハローワークで確認してください。
パート・アルバイトをしながら受給することはできますか? 週の所定労働時間や就労日数が一定以上(一般的に週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みなど)の場合は「就職」とみなされ、基本手当の支給対象外となることがあります。一方で、短時間・短日数の就労であれば、失業状態と認められる範囲で、収入額に応じて減額や不支給の調整が行われる取扱いがあります。
いずれの場合も、働いた日や収入は必ず失業認定申告書に正確に記載し、ハローワークに申告することが必要です。
年金を受け取りながら失業手当も受け取れますか? 65歳に達する前に受ける老齢厚生年金等と雇用保険の基本手当は、原則として併給調整が行われ、基本手当を受給する期間中、年金の全部または一部が支給停止となることがあります。一方、65歳以上の高年齢求職者給付金と老齢年金との関係は異なる取扱いです。具体的な調整内容は年金制度との関係も含めて複雑なため、詳細は年金事務所およびハローワークでの確認が必要です。

不正受給に関する注意点

雇用保険の基本手当は、失業された方の生活と再就職活動を支援するための公的給付です。就労日や収入、離職理由などを意図的に隠したり虚偽の申告を行った場合、「不正受給」として厳しい処分を受ける可能性があります。

  • 実際には就職しているのに失業の状態と申告する
  • パート・アルバイト等で働いた事実や収入を申告しない
  • 離職理由について事業主と口裏を合わせて虚偽の記載をする

不正受給と認定された場合には、不正に受けた額の返還だけでなく、最大3倍相当額の納付を命じられるほか、詐欺罪等で処罰の対象となる可能性があります。事業主が離職理由について虚偽の記載を行った場合も、連帯して責任を問われる取扱いがあります。

参考:厚生労働省「雇用保険 不正受給の防止について」等

参考・公式情報へのリンク

本記事は、現行の雇用保険制度に基づく一般的な実務ガイドです。実際の受給資格の有無・所定給付日数・基本手当日額・給付制限の有無・受給期間等は、離職理由や被保険者期間、健康状態など個別事情を踏まえ、所轄のハローワークにおける審査・判断が最終的に優先されます。特に、今後予定されている法改正や運用の見直しにより、給付制限期間や計算基準等が変更される可能性がありますので、最新情報は必ず公式情報でご確認ください。