退職給付金がある人ほど失業手当を計算しておくべき理由

監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士)

退職金があると安心しがちですが、「退職給付金がある人ほど」失業手当(雇用保険の基本手当)の見込み額を先に数値化しておくことが大切です。税・受給タイミング・健康保険や年金の切替などによって、合算した手取りが想定と大きくズレるケースが少なくありません。本稿では、実務で見かける代表的なリスクと、退職前後に押さえておきたい具体的なチェックポイントを整理します。

結論(短く)

退職給付金がある方ほど、退職金と失業手当の「金額・受取時期・税・社会保険への影響」を事前に把握し、その合計額を基準に生活資金計画を立てることが重要です。

退職金は一時金(退職所得)、失業手当は一定の要件を満たした場合に支給される継続的な生活支援(雇用保険の基本手当)です。両方を別々に見るのではなく、「手取りベースで合算して何か月分の生活費になるか」を把握することで、再就職までの期間を見通しやすくなります。

法制度上の前提:退職金と失業手当の位置づけ

まず、両者の法的な位置づけと性質を整理します。

  1. 退職金(退職給付金)
    ・退職金の支給自体は法律上の義務ではなく、就業規則や退職金規程等で制度を設けた場合に支給義務が生じます。
    ・支給対象者・金額・支給時期などは会社ごとの規程に基づきます。
    ・税法上は「退職所得」として扱われ、退職所得控除や1/2課税など、他の所得と比べると税負担が軽くなる仕組みがあります。
    ・所得税等は原則として源泉徴収で完結します(「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合)。
  2. 失業手当(雇用保険の基本手当)
    ・雇用保険法に基づく給付であり、「退職した人が一定の要件を満たし、失業の状態にある場合」に支給されます。
    ・離職前一定期間の被保険者期間、離職理由(自己都合・会社都合など)、年齢等により、所定給付日数・基本手当日額・受給開始時期が決まります。
    ・給付は非課税ですが、健康保険・年金・国民健康保険料など他制度との関係で実質的な手取りに影響します。

なお、退職金を受け取ったことだけを理由に、失業手当の受給資格が否定されることはありません。重要なのは、雇用保険上の受給要件(被保険者期間・離職理由・「失業の状態」にあるかどうか)です。

資金計画イメージ

退職金がある人に特に「事前試算」が必要な理由(3点)

  1. 退職金と失業手当の受給タイミングがずれやすい
    ・退職金の支給日は、就業規則や退職金規程で「退職日の翌月◯日」「退職後◯か月以内」などと定められていることが一般的で、退職後すぐに振り込まれない場合があります。
    ・失業手当は、
    ①離職票入手 → ②ハローワークで受給手続・求職申込み → ③7日間の待期 → ④(自己都合等の場合は給付制限期間)→ ⑤失業の認定 → ⑥支給、という流れを経ます。
    ・自己都合退職の場合、令和7年4月1日以降の離職では、原則として待期満了後1か月の給付制限(一定の条件では3か月)があるため、最初の振込までに1か月強〜数か月かかることもあります
    ・退職金・失業手当の両方の振込時期を把握していないと、「退職直後の1〜2か月だけ現金が足りない」という状態になりやすく、短期借入等に頼らざるを得ないケースも見られます。
  2. 税金・社会保険料の影響で「手取り」が想定より小さくなりやすい
    ・退職金には退職所得控除が適用されるものの、勤続年数や金額によっては一定の所得税・住民税が発生します。制度上は軽減措置がありますが、「額面=使えるお金」ではありません。
    ・失業手当は非課税ですが、退職後は原則として
    – 会社の健康保険から「任意継続」へ加入するか、
    – 市区町村の国民健康保険へ加入するか、
    – 配偶者等の被扶養者として他の健康保険に加入するか、
    いずれかを選択する必要があります。
    ・前年所得等を基準に国民健康保険料(税)が決まるため、在職中の収入が高かった方ほど、退職直後の保険料負担が重くなり、退職金の取り崩しが早まることがあります。
    ・住民税は「前年所得」に基づき、原則として退職翌年の6月から翌年5月まで課税されるため、「退職したのに住民税が高い」というギャップも生じます。
  3. 退職金があることで心理的に「余裕がある」と誤認しやすい
    ・まとまった一時金を受け取ると、「当面は大丈夫」と感じて支出が膨らむ傾向が見られます。
    ・実際には、退職金の一部は税金・社会保険料・再就職活動期間の生活費で計画的に充てる必要があり、「自由に使える額」は手取り合算額からさらに限定されます。
    失業手当の総額と受給期間(離職日の翌日から原則1年)が具体的に分かっていないと、資金が再就職前に尽きるリスクが高まります。

よくある事例(実務で見かけるパターン)

事例起きる問題
退職金の振込が退職の2〜3か月後 退職直後に現金が足りず、クレジットカードのリボ払いや高利の短期借入れを利用してしまう。
退職金を「額面」で資金計画に組み込む 退職所得控除後の課税・住民税等を考慮しておらず、実際の手取りが数十万円単位で想定より少なくなる。
健康保険・年金の切替を前提にしていない 国民健康保険料や国民年金保険料の負担を見込んでおらず、毎月の固定費が増えて退職金の減りが早くなる。
失業手当の給付制限を把握していない 自己都合退職で待期+給付制限があるにもかかわらず、「すぐに失業手当が入る」と誤解し、生活費の準備が不足する。

失業手当の基本的な仕組み(最低限押さえておきたいポイント)

退職金との合算を考えるうえで、失業手当の制度上のポイントを簡潔に整理します。

  1. 受給できるかどうか(受給資格)
    ・原則:離職前2年間に「被保険者期間」が通算12か月以上あること。
    ・倒産・解雇等、やむを得ない理由による離職の場合:離職前1年間に被保険者期間が通算6か月以上で足りる取扱いがあります。
    ・「失業の状態」(就職する意思と能力があり、積極的に求職活動をしているが職に就いていない状態)であることが必要です。
    ・家事専念や病気療養で当面就労できない場合などは、その間は基本手当を受給できません(受給期間の延長が可能な場合があります)。
  2. いくらもらえるか(基本手当日額と所定給付日数)
    ・おおむね「離職前6か月の賃金総額 ÷ 180 × 給付率(45〜80%)」で基本手当日額を算出します。
    ・基本手当日額には年齢ごとの上限額・下限額があり、高収入の方は一定額で頭打ちとなります。
    ・所定給付日数は、離職時年齢・被保険者期間・離職理由により90日〜360日の範囲で決まります。
    ・正確な金額や日数は、離職票に基づきハローワークで決定されます。
  3. いつから・いつまで受給できるか(受給開始時期と受給期間)
    ・手続後に7日間の待期期間があります。この間はいかなる場合も支給されません。
    ・自己都合退職等の場合、原則として待期満了後1か月の給付制限があります(過去5年以内に一定回数以上自己都合退職している場合等は3か月となることがあります)。
    ・離職の日の翌日から原則1年間が「受給期間」であり、この期間を過ぎると所定給付日数が残っていても受給できません(病気・妊娠・育児などやむを得ない理由がある場合は、延長が認められることがあります)。

これらを踏まえると、退職時点で「基本手当日額」「所定給付日数」「最初の振込予定時期の目安」を把握しておくことが、退職金との合算試算に不可欠であることが分かります。

まずやるべき具体的ステップ(5分〜15分でできる範囲)

  1. 退職金規程・就業規則で「支給日」と「算定方法」を確認する
    ・退職金の支給日(例:退職日の翌月◯日、退職後◯か月以内)を確認し、退職後いつ現金化されるかを把握します。
    ・勤続年数、退職理由(定年・自己都合・会社都合など)、役職等により支給額が変動する場合が多いため、「概算額」を確認しておきます。
  2. 離職票の発行スケジュールと失業手当の手続開始時期を確認する
    ・退職後、会社がハローワークに手続を行い、その後従業員へ離職票が交付されます。実務上は退職から1〜2週間程度かかることが一般的です。
    ・離職票が手元に届いたら、住所地を管轄するハローワークで受給手続・求職申込みを行います。遅れるほど受給開始も遅れます。
  3. 直近6か月の給与総額を把握する
    ・給与明細または源泉徴収票等から、退職前6か月の総支給額(賞与を除く)を把握します。
    ・簡易試算では「6か月分の総支給額 ÷ 180 × 0.5〜0.7程度」で、概ねの基本手当日額のイメージがつかめます(実際の給付率・上限額はハローワークで決定されます)。
  4. 退職金は「税引後」の見込み額を確認する
    ・退職所得控除額(勤続年数に応じた控除額)を差し引いたうえで、課税対象額の1/2に対して所得税・住民税が課されます(勤続5年以下の役員等は一部計算方法が異なります)。
    ・社内でシミュレーションが難しい場合は、税理士または国税庁の情報等を参考にしながら、概算で「手取り額」を把握しておきます。
  5. 退職金(税引後見込み)+失業手当(総額見込み)を「月数」に換算する
    ・退職金(税引後見込み)+失業手当の総額(基本手当日額×所定給付日数)を合算します。
    ・毎月の生活費(家賃・食費・光熱費・通信費・保険料・教育費・税・社会保険料など)を洗い出し、「合算手取り ÷ 1か月の生活費」で、何か月分の生活費に相当するかを数値化します。
    ・ここで「退職直後の1〜3か月は失業手当が入らない」「国民健康保険料・国民年金保険料・住民税が発生する」ことも加味して検討します。

まずは合算で試算してみましょう

退職金の受取予定額(税引後の概算)と、直近6か月分の給与総額が分かれば、「退職金+失業手当の合算手取り」がおおよそ把握できます。当事務所の簡易シミュレーターでは、基本手当日額や所定給付日数の目安も合わせて確認できます(所要2〜3分)。

シミュレーションイメージ

資金設計のワンポイント(実務上の留意事項)

  • 退職金の一部は「生活予備資金」として確保する
    ・失業手当の最初の振込までを見越して、最低でも3か月分程度の生活費は現預金で確保しておくと安心です。
  • 待期期間・給付制限を前提に「空白期間の資金」を見積もる
    ・自己都合退職等で給付制限がある場合は、待期7日+給付制限期間中(原則1か月、条件により3か月)の生活費を、退職金や預貯金で手当てする必要があります。
  • 健康保険・年金・住民税の負担を必ず織り込む
    ・国民健康保険料(税)と国民年金保険料は、失業手当とは別に毎月支払いが発生します。
    ・前年の所得水準が高い場合、国民健康保険料が想定以上の負担となることがあります。市区町村の窓口やホームページ等で試算しておくとより安全です。
  • 受給期間の「1年」を意識する
    ・原則として、離職日の翌日から1年が経過すると、その時点で残っている所定給付日数は受給できなくなります。
    ・病気・妊娠・育児など、やむを得ない理由で30日以上働けない場合は、受給期間の延長が認められることがありますので、早めにハローワークでの確認が重要です。
  • 再就職時の「再就職手当」も視野に入れる
    ・所定給付日数を残した状態で早期に再就職した場合、一定の条件のもとで再就職手当が支給される仕組みがあります。
    ・「早く働き始めた方が、生涯の手取りでは有利になる」ケースも多いため、退職金・失業手当・再就職手当を含めた中長期の視点で検討することが望ましいといえます。

よくある質問(簡潔)

Q:退職金を受け取ったら、失業手当は受けられないのでしょうか?
A:退職金の有無だけを理由に、雇用保険の基本手当が受けられなくなることはありません。受給の可否や給付日数は、あくまでも「雇用保険の被保険者期間」「離職理由」「失業の状態かどうか」などによって判断されます。具体的な受給資格や金額・期間は、離職票を持参のうえ、住所地を管轄するハローワークで確認してください。
Q:自己都合退職でも、いつから受給できるのですか?
A:受給手続きを行った日から7日間の待期期間があり、この期間は支給されません。その後、自己都合退職など正当な理由のない自己都合に該当する場合は、原則として待期満了後1か月間の給付制限があります(一定の条件に該当すると3か月となる場合があります)。給付制限中は基本手当は支給されませんので、退職金などで生活費を賄う必要があります。詳細な取扱いは、ハローワークの案内や厚生労働省の資料をご確認ください。
Q:失業手当はいくらくらいになるイメージを持てばよいですか?
A:おおよその目安としては、離職前6か月の給与総支給額(賞与を除く)を180で割った金額に、45〜80%程度の給付率を掛けた金額が「基本手当日額」のイメージです。実際には年齢区分ごとの上限額・下限額があり、正確な金額は離職票に基づきハローワークで決定されます。厚生労働省のホームページに、賃金水準ごとの支給額の目安も掲載されています。

退職金と失業手当を踏まえた個別の資金計画も可能です

退職金の税引後試算、基本手当の総額・受給開始時期の確認、国民健康保険料や国民年金保険料の見込みなどを含めた「合算手取り」の試算を行うことで、再就職までに必要な生活資金をより具体的にイメージできます。当事務所では、簡易シミュレーションから、退職時期・離職理由・再就職のご意向を踏まえた個別の設計まで対応しています。

まとめイメージ

参考・公式窓口

本記事は、現行法令および公表資料に基づく一般的な実務ガイドです。最終的な給付可否・給付日数・金額・受給期間等は、所轄ハローワークおよび関係機関の判断が優先されます。最新の取扱いや、ご自身の具体的な状況については、必ず公式窓口の情報をご確認ください。