退職給付金があっても、まず確認すべきは失業手当の金額です — 先に「現金で何ヶ月持つか」を数値で出す重要性

監修:社会保険労務士(雇用保険・退職給付制度を専門とする実務家)

退職金(退職給付金)があると「当面は大丈夫だろう」と考えがちですが、法制度の観点から見ると、まず押さえるべきは雇用保険の基本手当(一般に「失業手当」と呼ばれる給付)の金額と受給期間です。基本手当は一定期間、継続して支給される生活補償であり、退職金は一時金に過ぎません。退職前後に「手元の現金で何ヶ月生活できるか」を数値化しておくことが、資金計画上きわめて重要です。

結論(1行)

退職金があっても、雇用保険の基本手当(失業手当)の「総受給見込み額」と「受給時期」を把握したうえで、退職後の生活資金を設計することが不可欠です。

失業手当(基本手当)の位置づけと受給の前提

雇用保険の基本手当は、失業した方が安定した生活を送りつつ、できるだけ早く再就職できるように支給される給付です。退職すれば必ず受けられるものではなく、以下のような要件を満たす必要があります。

  • 退職前2年間に、原則として被保険者期間が12か月以上あること(倒産・解雇等の場合は前1年間に6か月以上でも可)。
  • 就職しようとする意思と、いつでも就職できる能力があり、積極的に求職活動をしているにもかかわらず職に就いていない状態であること。
  • 雇用保険の被保険者であった期間に、過去に基本手当等を受給していない期間が、今回の受給資格の算定対象になること。

参考:厚生労働省「離職されたみなさまへ<失業給付(基本手当)のご案内>」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000149588.html

なぜまず失業手当を確認するのか(要点)

  • 生活費を賄う「継続給付」であること
    基本手当は、1日当たりの「基本手当日額」に所定給付日数を乗じた範囲で、4週間ごとの認定を経て分割して支給されます。総額だけでなく、「いつ・いくら入金されるか」が生活設計上重要です。
  • 退職金は一時金であり、税後手取りがケースにより大きく変わること
    退職金は退職所得控除などの税制優遇がありますが、勤続年数や金額により所得税・住民税の負担が発生し、また分割受取か一時金かによっても手取りが異なります。税引前金額だけで判断すると、実際に使える資金を過大評価しがちです。
  • 受給開始までのタイムラグがあること
    求職申込み・受給資格決定後、まず7日間の待期期間があり、この間は基本手当は支給されません。さらに、正当な理由がない自己都合退職の場合には、待期満了後に原則1か月(過去5年以内に自己都合退職による受給資格決定が2回以上ある場合などは3か月)の給付制限が生じ、実際の入金はその後になります。退職直後の生活費は、貯蓄や退職金で賄う必要があります。

参考:厚生労働省「雇用保険制度のご案内」
https://www.mhlw.go.jp/content/000976472.pdf

賃金日額と給付の関係

まずやるべき短いチェックリスト(準備する情報)

退職前後に、次の情報を整理しておくと、失業手当と退職金を合わせた資金計画が立てやすくなります。

  1. 直近6か月の給与合計
    残業代・諸手当を含めた総支給額(賞与は除く)を、給与明細で合算します。基本手当の計算の基礎となる「賃金日額」の概算に用います。
  2. 離職理由
    自己都合退職か、解雇・雇い止め・会社都合かにより、所定給付日数や給付制限(待機後の不支給期間)の有無が変わります。離職票に記載される離職理由が基準となります。
  3. 離職時の年齢
    年齢区分(例:30歳未満、30~44歳、45~59歳、60~64歳など)により、賃金日額の上限・下限および基本手当日額の上限額、所定給付日数が異なります。
  4. 退職金の受取予定
    ・支給時期(退職後すぐ/数か月後など)
    ・一時金か分割か
    ・退職所得控除を適用した後の課税見込額(源泉徴収票で最終確認)
    を把握しておきます。
  5. 毎月の必要生活費
    住居費、食費、光熱費、保険料、ローン、教育費などを合計し、「最低限必要な月額」と「やや余裕を見た月額」を整理しておきます。

基本手当の仕組みと概算の計算手順

正確な金額は、離職票を基に所轄ハローワークが計算しますが、おおよその見込みは次の流れで試算できます。

簡単シミュレーションの手順(3ステップ)

  1. 賃金日額(概算)を求める
    賃金日額とは、退職前6か月に支払われた賃金総額(賞与を除く)を180で割った金額が基本となります。
    例:直近6か月の総支給額が180万円の場合
    賃金日額(概算)= 1,800,000円 ÷ 180 = 10,000円
  2. 基本手当日額(概算)を求める
    基本手当日額は、賃金日額に一定の給付率(おおむね45〜80%)を乗じて求められ、さらに年齢区分ごとに上限額・下限額が定められています。
    例:30歳代で賃金日額が10,000円程度の場合、給付率は概ね60〜80%の範囲となり、上限額の範囲内で決定されます(実際の給付率は賃金水準・年齢に応じた曲線で決められます)。
  3. 総受給見込み額と「生活可能月数」を試算する
    まず、ご自身の被保険者期間・年齢・離職理由から、所定給付日数(90日〜360日など)を確認します。
    総受給見込み額(概算)= 基本手当日額(概算) × 所定給付日数
    退職金(税引後見込額)+上記総受給見込み額を合算し、毎月の必要生活費で割ることで、「何か月分の生活費に相当するか」を把握することができます。

参考:厚生労働省「雇用保険の基本手当日額の計算方法・上限額」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000601754.pdf

自分のケースを数値化してみましょう

直近6か月の給与合計と退職金の予定額、毎月の生活費の目安がわかれば、「基本手当の概算」と「退職金を含めた生活可能月数」を簡単に試算できます。
当事務所のシミュレーターでは、最新の上限額や給付率の考え方を踏まえながら、あくまで概算としての目安を表示します。最終的な給付日数・金額は、必ず所轄ハローワークでご確認ください。

生活設計のイメージ

基本手当の所定給付日数と離職理由・年齢の関係(概要)

所定給付日数は「雇用保険の被保険者であった期間(通算年数)」「離職時の年齢」「離職理由」によって決まります。おおむね次のような考え方です。

  • 一般的な自己都合退職などの場合:被保険者期間1年未満〜20年以上で、90日〜150日程度。
  • 倒産・解雇等(会社都合)や一定の契約満了などの場合:同じ被保険者期間でも、90日〜330日など、より長い給付日数となる区分がある。
  • 障害者等の就職困難者と判断される場合:45歳未満で最大300日、45歳以上65歳未満で最大360日など、さらに手厚い日数が設定されている区分もある。

※詳細な日数は、厚生労働省が公表している「基本手当の所定給付日数」の一覧表で確認できます。個々のケースがどの区分に当てはまるかは、離職票の記載内容や手帳の有無等を基にハローワークが判断します。

参考:ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_benefitdays.html

退職後の時系列で見る「現金の動き」

退職後の現金収支は、「退職金」「失業手当」「その他の支出・収入」が時間軸でどう動くかを把握することが重要です。典型的には、次のような流れになります。

  • 退職日〜1か月程度
    ・給与の最終支給(未払い残業の精算などを含む)
    ・退職金(一時金)の支給(就業規則・退職金規程により時期は異なる)
    ・健康保険の任意継続・国民健康保険への切替、厚生年金から国民年金への切替などの手続きに伴う保険料負担の変更
    ・住民税の普通徴収への切替により、退職後も前年所得に基づく住民税の支払いが発生
  • 離職票到着〜ハローワークでの手続き
    ・離職票-1・2、マイナンバー確認書類、本人確認書類、写真、通帳等を持参して求職申込みと受給資格の決定を行う。
    ・求職申込み日から7日間の待期期間がスタート。
  • 待期期間終了後〜給付制限期間
    ・自己都合退職などで給付制限がある場合、待期満了日の翌日から原則1か月(一定の場合は3か月)基本手当は支給されない。
    ・この間も4週間ごとの失業認定は必要であり、求職活動実績が求められる。
  • 給付開始〜所定給付日数終了まで
    ・4週間に1回の失業認定を受け、その都度、原則として28日分の基本手当が指定口座に振り込まれる。
    ・再就職した場合は、その時点で基本手当の支給は止まり、条件によっては再就職手当等の対象となる。

実務的に陥りやすいミス

  • 退職金の入金時期と手取り額を確認せずに退職してしまう
    退職金規程により、支給が退職後数か月先になる場合や、分割支給となる場合があります。また、退職所得控除を超える部分には所得税・住民税がかかるため、実際に生活費として使える金額は「額面」より小さくなります。
  • 失業手当の待期・給付制限を考慮せず、退職直後からの受給を想定してしまう
    待期7日間+給付制限1か月〜3か月の間は、原則として基本手当は支給されません。その期間をどう乗り切るかを、退職前から検討しておく必要があります。
  • 失業手当を受けながらのアルバイト・自営準備の扱いを誤解する
    週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある就労は「就職」とみなされ、基本手当の支給対象外となります。また、短時間就労や日雇いであっても、収入がある日は申告が必要であり、金額・日数により減額や不支給になることがあります。申告漏れは不正受給と判断されるリスクがあります。
  • 年金との関係を確認しない(60歳以上〜65歳未満の方)
    老齢厚生年金を受給している方が基本手当の受給手続きをすると、原則として基本手当の受給期間中、年金が全額支給停止となる取扱いがあります。どちらを優先するかは、総額や期間を比較して検討する必要があります。

数字で判断するメリット(ケースごとの違いを見える化)

退職金と失業手当を合算し、「毎月いくらまで使えるか」「何か月持つか」を数値で比較すると、次のような判断に役立ちます。

  • 再就職のスピード感を決める材料になる
    ・生活費が6か月分しかない場合と、1年分ある場合では、職種・勤務地・年収にどこまでこだわるかの戦略が変わります。
    ・自己都合退職で給付制限がある場合は、その期間中の資金計画を事前に把握しておく必要があります。
  • 退職金の使い方(生活費・予備資金・将来資金)の配分を考えやすい
    ・退職金の一部を「予備資金」として手元に残し、残りを老後資金・教育資金・ローン返済などに充てるかどうかを検討できます。
    ・再就職手当の可能性も踏まえれば、早期再就職による追加収入もシミュレーションが可能です。
  • 社会保険料・税負担を含めたキャッシュフローを意識できる
    ・国民健康保険料、国民年金保険料、住民税など、退職後に増える/形が変わる負担を見越しておくことで、「思ったより出費が多かった」という事態を避けられます。

退職金と税金の基本的な考え方

退職金は「退職所得」として、給与所得とは別枠で計算され、退職所得控除などの優遇措置があります。そのため、同額の給与に比べると税負担は軽くなりますが、次の点には注意が必要です。

  • 勤続年数に応じて退職所得控除額が決まるため、勤続年数が短い場合は、控除後の金額に対して所得税・住民税が発生しやすくなる。
  • 同一年中に複数の退職金が支給された場合などは、合算して退職所得を計算する必要がある。
  • 源泉徴収された所得税は、原則として退職時の計算で精算されるが、他の所得との関係で確定申告が必要になるケースもあり得る。

退職金の税額や手取り額については、会社から交付される「退職所得の源泉徴収票」の内容を確認し、必要に応じて税務署や税理士に確認することが望ましいといえます。

実務ワンポイント(退職前後の手続きの留意点)

  • 離職票が届いたら、できるだけ早くハローワークで求職申込みをする
    受給期間は原則として「離職日の翌日から1年間」であり、この期間を過ぎると、所定給付日数が残っていても受給できません。離職票の到着を待つあいだに日程を決めておくとスムーズです。
  • 離職理由に疑義がある場合は、そのままにしない
    会社都合と考えられるケースが自己都合で記載されていると、所定給付日数や給付制限の有無に影響します。記載内容に疑問がある場合には、ハローワークで事情を説明し、必要に応じて会社側に確認が行われます。
  • 失業中に働いた日・収入は必ず申告する
    日雇い・短時間勤務・在宅ワーク等を含め、働いた日は失業認定申告書に記入する必要があります。申告漏れは「偽りその他不正の行為」とみなされ、受給額の最大3倍の返還・納付等の厳しい制裁を受ける可能性があります。
  • シミュレーターの結果は「概算」と理解する
    実際の給付日数・金額は、雇用保険法および関係告示・通達に基づき、所轄ハローワークが離職票等をもとに決定します。あくまで資金計画のための目安として利用し、最終的な判断はハローワークの説明に従うことが重要です。

まずは数分で「合算試算」を行い、退職後の資金計画を可視化しましょう

当事務所のシミュレーターでは、
・離職前6か月の給与合計からの基本手当日額の概算
・推定所定給付日数に基づく総受給見込み額
・退職金(税引後想定額)との合算
・毎月の生活費を踏まえた「生活可能月数」
を、簡易に計算することができます。
まずは簡易試算を行い、そのうえで必要に応じて、個別の条件(離職理由、被保険者期間、年齢、年金受給状況など)に即した確認を進めることが有効です。

まとめビジュアル

参考・公式情報へのリンク

本記事は、退職金と雇用保険の基本手当を前提とした一般的な資金計画の考え方をまとめたものであり、特定の方の給付可否・給付日数・給付額を保証するものではありません。
実際の受給資格、所定給付日数、基本手当日額、給付制限の有無等については、必ず住居地を管轄するハローワークで最新の法令・通達に基づく説明を受けてください。