社労士がよく受ける質問:退職金があっても失業手当はもらえるの?

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社労士がよく受ける質問:退職金があっても失業手当はもらえるの?
社労士がよく受ける質問:退職金があっても失業手当はもらえるの?

社労士がよく受ける質問:退職金があっても失業手当はもらえるの?

監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士)

「退職金が出るなら失業手当は減るのでは?」という質問は相談窓口で非常に多く受けます。結論から言うと、制度上は退職金(退職給付金)と雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)は別制度であり、原則として、退職金の有無や金額が直接、基本手当の支給可否や支給額に影響することはありません。この記事では、よくある疑問をQ&A形式で整理しつつ、基本手当を受けるための前提条件賃金日額・基本手当日額の計算式(賃金日額=離職前6か月の給与合計 ÷ 180)、自己都合・会社都合による給付制限や所定給付日数の違い、退職金との資金計画上の関係まで、実務で会社が押さえておきたいポイントを解説します。

なお、本稿でいう「失業手当」は、雇用保険法上の求職者給付のうち、65歳未満の一般被保険者に支給される基本手当を指します。65歳以上の高年齢被保険者に対する「高年齢求職者給付金」や、季節労働者等に対する「特例一時金」など、他の給付とは区別してご覧ください。

まずは概算を確認してみましょう

離職前6か月の給与合計(社会保険料等控除前の総支給額・賞与と退職金は除外)を入力すれば、賃金日額→基本手当日額(概算)を算出できます。あわせて、退職金については退職所得控除・税率等を踏まえた税引後手取りを確認しておくと、退職後1年間程度の資金計画が立てやすくなります。

退職金と失業手当(基本手当)の関係

会社から支給される退職金は、あくまで就業規則や退職金規程に基づく私的給付であり、雇用保険の基本手当は雇用保険法に基づく公的給付です。制度上は別建てになっているため、次の点を押さえておくと誤解を防ぎやすくなります。

  • 退職金の有無や金額は、原則として基本手当の受給資格の有無・金額・所定給付日数の計算には用いられない
  • 基本手当の受給には、「失業の状態」であることと、一定の被保険者期間(離職前2年間に通算12か月以上等)が必要であり、これらは退職金の有無とは別に判定される。
  • 賃金日額の計算に用いる「賃金」は、離職前6か月間の給与総支給額(各月の賃金締切日基準)であり、賞与や退職金は含めない扱いとなっている。

※基本手当の受給資格要件や被保険者期間の数え方は、厚生労働省およびハローワークの公式情報をご確認ください。
参考:厚生労働省|雇用保険制度のご案内

よくある質問(Q&A)

Q1. 退職金があると失業手当は減らされますか?

A. 原則として減りません。
基本手当は「離職前6か月の賃金」を基に算定され、賞与や退職金は賃金日額の計算に含まれません。そのため、退職金が多い・少ないといった事情が、直接、基本手当日額を増減させることはありません。

もっとも、基本手当を受給するには、

  • 積極的に就職しようとする意思があること
  • いつでも就職できる能力(健康状態・環境など)があること
  • 積極的に求職活動を行っているにもかかわらず職に就いていないこと

といった「失業の状態」にあることが必要であり、専業主婦(夫)として家事専念を選択している場合や、すでに次の就職が決まっている場合などは受給対象になりません。この点は、退職金の有無とは別の要件として説明しておく必要があります。

Q2. 退職金と失業手当は別々に受け取れるの?

A. はい、原則として別々に受け取れます。
退職金は会社から、基本手当はハローワークから支給されるものであり、支給主体も財源も異なります。退職金が支給されるからといって、法律上、それだけを理由に基本手当が減額・不支給となる仕組みにはなっていません。

ただし、実務上は次の点を押さえて説明しておくと安心です。

  • 基本手当は、退職しても自動的に支給されるわけではなく、離職票等を持参してハローワークで求職の申込みと受給手続を行う必要がある
  • 自己都合退職等の場合、原則として7日の待期期間後に給付制限(1か月又は3か月等)が課される期間があり、その間は基本手当が支給されない。
  • 退職金の支給時期によっては、退職後数か月間は退職金で生活し、その後に基本手当の支給が始まるという時系列になることが多い。
  • 退職金は所得税法上の退職所得として扱われ、退職所得控除の適用や分離課税となる一方、基本手当は非課税所得として扱われるため、税務上も別枠の取扱いとなる。

Q3. 退職金が多いとハローワークで何か不利になりますか?

A. 退職金が多いこと自体を理由とする不利益はありません。
ハローワークでは、離職理由や被保険者期間、離職前6か月の賃金などを基に受給資格を判断し、賃金日額・基本手当日額および所定給付日数を決定します。この際、退職金の金額の多寡は審査項目ではありません。

もっとも、従業員側が「退職金がまとまって入るから当面は求職活動をしない」「一定期間は家事や学業に専念する」といった生活設計を立てる場合には、そもそも失業の状態に該当しないため、基本手当を受給できない可能性があります。この点を、退職面談等で「退職金の金額にかかわらず、就職する意思と能力・求職活動の有無で判断される」という整理でお伝えしておくと誤解を避けやすくなります。

Q4. どのような場合にそもそも失業手当を受けられないの?

A. 主なポイントは次の2つです。

  1. 雇用保険の被保険者期間が、原則として離職前2年間に通算12か月以上(倒産・解雇等やむを得ない理由の場合は離職前1年間に通算6か月以上)あること。
  2. 前述のとおり、「失業の状態」にあること(専業主婦(夫)、昼間学生、家業専従、起業準備専念、次の就職が内定済み等の方は原則対象外)。

退職金の有無はこれらの要件とは関係しませんが、退職説明の際には「退職金が出る=失業手当も必ず出る」という誤解が起こりやすいため、「退職金」と「雇用保険の受給資格」は別々に説明しておくとよいでしょう。

誤解が生まれる典型的な理由

  • 「給付」という言葉の曖昧さ(会社からの退職金・慰労金などの一時金と、雇用保険等の公的給付が同列に語られる)。
  • 退職金を「退職後しばらくの生活費」として会社・本人ともに前提にする実務慣行から、「退職金で生活できるのだから失業手当は少なくて良い(あるいは不要)」と誤ったイメージを持たれやすい。
  • 自己都合退職の場合の待期7日・給付制限期間(1か月・3か月等)の説明不足により、「退職直後から失業手当が支給されるはず」という理解が広まってしまう。
  • 雇用保険の区分(基本手当・高年齢求職者給付金・特例一時金等)や、被保険者期間の通算ルールが複雑で、「退職金が多いから支給されない」などの誤解が生じがちである。

※自己都合退職の給付制限期間(1か月・3か月等)は、法令や適用時期、離職理由の区分(一般受給資格者・特定受給資格者・特定理由離職者など)によって取り扱いが変わることがあります。実際の給付制限の有無・期間は、離職票の離職理由区分やハローワークの判断により決定されますので、最終的には所轄ハローワークでご確認ください。

賃金日額と基本手当日額の考え方

退職金とは切り離して、基本手当の金額は次のような流れで決まります。

  1. 賃金日額の算定
    離職の日以前6か月間に支払われた賃金(給与の総支給額。賞与は除く)の合計を180で割ったものが「賃金日額」です。
    例:直近6か月の給与合計が180万円であれば、賃金日額は10,000円となります。
  2. 基本手当日額の算定
    賃金日額に年齢区分等に応じた給付率(おおむね45%~80%の範囲)を乗じたものが「基本手当日額」となります。実務上の感覚としては、概ね60%程度を目安に概算することが多いですが、実際には、離職時年齢や賃金水準ごとに上限額・下限額が定められています。
  3. 所定給付日数の決定
    被保険者期間と年齢、離職理由(自己都合・会社都合等)に応じて、90日~330日程度の範囲で所定給付日数が決まります(就職困難者等は別枠)。

ここでも、退職金の有無や金額は計算に用いられませんが、賃金日額の計算対象に賞与や退職金が含まれないことを退職者に説明しておくと、「ボーナスも入れて計算されるのではないか」という誤解を防ぐことができます。

賃金日額・基本手当の簡易計算(復習)

概算レベルでのイメージを持ってもらうために、次のような説明が実務上は用いられます。

賃金日額(概算)=離職前6か月の給与合計 ÷ 180
基本手当日額(概算)=賃金日額 × 給付率(目安:60%。実際は年齢等で45〜80%の範囲)

直近6か月合計 賃金日額(÷180) 給付率(概算) 基本手当日額(概算)
¥900,000(平均月15万円) ¥5,000 60% ¥3,000
¥1,800,000(平均月30万円) ¥10,000 60% ¥6,000

※実際の給付率および上限・下限額は、毎年8月1日から賃金・物価動向に応じて改定される場合があります。最新の上限額・下限額は、厚生労働省またはハローワークのリーフレット・ウェブサイトでご確認ください。
参考:雇用保険の基本手当日額の上限・下限額(厚生労働省PDF)

退職金と失業手当を合算して説明する際の注意点

退職面談やセカンドキャリア説明会等で、「退職金+失業手当」のトータルイメージを示したい場面は多いと思われます。その際には、次の点に留意すると、法令上の誤解やトラブルを避けつつ、従業員にとっても分かりやすい説明になります。

  1. 税後手取りで合算すること
    退職金は、勤続年数に応じた退職所得控除が適用され、課税対象となる退職所得は「(退職金-退職所得控除)×1/2」で計算されます。そのうえで、他の所得と分離して所得税・住民税が課されます。一方、基本手当は原則として非課税です。したがって、退職金と基本手当を単純に「額面」で合算するのではなく、退職金は税引後手取り額で試算し、そのうえで基本手当の概算額を加えるという形で説明するのが適切です。
  2. 受給開始の遅れ(給付制限)に備えた案内
    自己都合退職等の場合、待期7日間経過後、一定期間の給付制限がかかり、その間は基本手当が支給されません。このため、退職から実際に基本手当が振り込まれるまでには1か月半~4か月程度のタイムラグが生じることが多くなります。退職金がある場合でも、「退職直後3か月間は退職金で生活し、その後に基本手当が開始される」といったキャッシュフローを明示すると、従業員側の資金不安を和らげることにつながります。
  3. 透明性をもって説明すること
    賃金日額の計算に何が含まれるか(直近6か月の給与・賞与除外・退職金除外など)、基本手当の上限・下限があること、所定給付日数が離職理由によって変動することなどを、あらかじめ明示しておくと、「思っていたより少ない」「説明と違う」といった不信感を防ぐことができます。
    会社側で説明用の資料を作成する場合には、最後に「最終的な受給資格・日数・金額は所轄ハローワークが離職票等に基づき決定します」と明記しておくと、法令上の権限関係も整理しやすくなります。

実務で会社が説明すべきチェックリスト

退職金と失業手当の関係について、会社側が退職者に説明する際のポイントを整理すると、おおむね次のようになります。

  • 退職金の支給要件(対象者・勤続年数要件等)・支給時期(退職後◯日以内等)を事前に明示する。
  • 賃金日額の計算方法(「離職前6か月の賃金合計 ÷ 180」)と、計算から除外される項目(賞与・退職金など)を説明する。
  • 基本手当の受給資格(失業の状態・被保険者期間など)と、受給開始のタイミング(待期7日・給付制限の有無)について案内する。
  • 退職金は退職所得として課税されること、税引後手取り額で生活設計を立てる必要があることを伝えたうえで、税務の詳細な試算が必要な場合は税務の専門家への確認を勧める。
  • 雇用保険に関する最終的な給付可否・日数・金額は所轄ハローワークが決定することを明記し、会社の説明はあくまで一般的なガイドである旨を添える。
  • 65歳以上の退職者については、基本手当ではなく高年齢求職者給付金の対象となる場合があることを説明し、区分の違いを整理して伝える。

退職金と他の雇用保険給付との関係

退職後の公的給付は、基本手当だけではありません。特に、次のようなケースでは、従業員からの質問が出やすいため、会社側でも概要を押さえておくと説明がスムーズです。

  • 再就職手当
    基本手当の受給資格がある方が、待期終了後かつ所定給付日数の3分の1以上を残した時点で安定した職業に再就職した場合に支給される一時金です。退職金との直接の調整はありませんが、早期再就職のインセンティブとして機能します。
  • 就業促進定着手当(制度概要)
    再就職手当を受給して再就職したものの、再就職先の賃金が離職前より低下している場合に、一定の要件のもとで差額の一部を補填する趣旨の給付です。こちらも退職金とは別建てであり、退職金の有無で支給が左右されるわけではありません。
  • 高年齢求職者給付金
    65歳以上で離職した高年齢被保険者に支給される一時金で、基本手当とは制度が異なります。退職金がある場合でも、雇用保険上の要件(離職前1年間に被保険者期間が通算6か月以上など)を満たしていれば、別途支給対象となり得ます。

※各給付の具体的な受給要件や金額、申請手続きについては、厚生労働省・ハローワークの公式リーフレットやウェブサイトで、最新情報をご確認ください。

退職面談での伝え方(会社側の実務ポイント)

退職金と失業手当の関係について、退職面談や説明資料で整理して伝える際には、次のような流れで説明すると理解が得やすくなります。

  1. 退職金そのものの説明
    「貴社の退職金規程」に基づく支給条件・算定方法・支給予定日・概算額(税引前)を提示し、退職所得控除の存在と「税引後手取りは別途計算が必要」であることを補足する。
  2. 雇用保険(基本手当)の制度概要
    「退職=自動的に支給」ではなく、ハローワークでの手続きが必要であること、受給要件(失業の状態・被保険者期間)、給付制限の有無があることを簡潔に説明する。
  3. 賃金日額・基本手当日額の概算と、退職金の位置づけ
    離職前6か月の給与情報をもとに、賃金日額・基本手当日額・所定給付日数の概算イメージを示し、「退職金はこれと別に支給される私的給付である」ことを明確に区分して説明する。
  4. タイムラインの提示
    退職日、退職金支給予定日、離職票到着見込み、ハローワークでの手続き可能時期、待期期間・給付制限期間、基本手当の初回振込想定時期を簡単な時系列で示すと、退職者の不安軽減につながります。

最後に(社労士からのワンポイントアドバイス)

退職金があっても、雇用保険の基本手当は制度上きちんと受給できますし、退職金の多寡を理由に基本手当が減額されることもありません。ただし、退職者にとって重要なのは、「いつ」「いくら」「税引後で手元にいくら残るのか」という具体的な資金の見通しです。

会社としては、退職金と雇用保険(基本手当)を混同せず、別制度であることを明示したうえで、退職金の支給時期と基本手当の受給開始時期をセットで説明することが、退職者の安心感につながります。詳細な給付可否・日数・金額については、必ず所轄ハローワークが行う決定が最終となる旨をお伝えいただきつつ、会社としては一般的な制度説明と情報提供にとどめる形が、法令上も実務上もバランスのよい対応といえます。

退職時の説明資料や試算をサポートします

当事務所では、退職者向けの説明資料作成や、退職金と雇用保険の基本手当を踏まえた資金計画の試算に対応しています。自社の退職金規程や雇用形態に応じた説明の整理が必要な場合は、必要な情報をお伺いしながら、従業員の方にも分かりやすい形での整理を行うことが可能です。

参考・公式窓口(確認先)

本記事は、一般的な制度の概要および実務的な説明ポイントをまとめたものであり、すべてのケースにそのまま当てはまることを保証するものではありません。実際の給付可否・給付日数・金額および退職金の税務処理は、個別事情(勤続年数・退職理由・被保険者期間・他の所得状況等)や法改正等により異なる場合があります。確定した金額および具体的な取扱いは、所轄ハローワーク・税務署等の案内・決定が優先されます。

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