目次
有給休暇、付与日数を勘違いしていませんか?社労士監修シミュレーターで確認
監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士)
年次有給休暇(以下「有給休暇」)の付与日数について、「たぶん合っているはず」「システムが計算しているから大丈夫」と思いながら、根拠を説明できないまま運用されている企業も少なくありません。 とくにパート・アルバイトや短時間勤務者、有期契約者・派遣労働者などについては、付与日数が法定以下になっている、あるいはそもそも付与されていないといった事例も見受けられます。
有給休暇の付与日数は、労働基準法第39条に基づき、 勤続年数と、週の所定労働日数・週の所定労働時間を組み合わせて決まる「法定の最低基準」があります。 この基準を下回る付与は認められていませんので、誤った日数で運用していると、未付与分の遡及付与・是正指導・割増金請求など、企業側のリスクにつながるおそれがあります。
この記事では、法令に基づいた付与日数の考え方と、実務で勘違いが生じやすいポイントを整理したうえで、 自社の付与日数を確認する際にご利用いただけるシミュレーターをご案内します。
参考:厚生労働省「年次有給休暇のあらまし」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html
画像①:有給休暇の付与日数確認のイメージ
付与日数のギャップを「見える化」:社労士監修シミュレーター
勤続期間・週の所定労働日数・週の所定労働時間・出勤率などを入力すると、 労働基準法に基づく法定の付与日数が自動計算され、現在の社内ルールとのギャップを確認できます。
※ 本シミュレーターは厚生労働省公表の付与日数表に基づき一般的な法定日数を算出するものです。実際の付与日数は、就業規則・個別契約・出勤状況等により異なる場合があります。
参考:厚生労働省リーフレット「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-3.pdf
有給休暇の付与日(基準日)の基本
有給休暇は、労働基準法第39条により、次の2つの条件を満たした場合に付与義務が生じます。
- 雇入れ日から6か月以上継続勤務していること
- その期間の出勤率が全労働日の8割以上であること
この2つの条件を最初に満たした日が「初回の付与日(基準日)」となり、その日から1年ごとに、同様に出勤率8割以上であれば有給休暇を付与していきます。 「入社した日」や「試用期間終了日」が自動的に付与日になるわけではない点に注意が必要です。
参考:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得」(年休の基準日・付与要件)
https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf
「通常の労働者」と「比例付与」の違い
有給休暇の付与日数は、大きく分けて次の2つの枠組みで決まります。
- (1)通常の労働者
週の所定労働時間が30時間以上、または週の所定労働日数が5日以上の労働者 - (2)比例付与の対象者
週の所定労働時間が30時間未満かつ、週の所定労働日数が4日以下(または年間所定労働日数が48~216日)の労働者
まず、通常の労働者(週5日または週30時間以上)に対する法定付与日数は、次のとおりです(出勤率8割以上の場合)。
| 継続勤務年数 | 週5日・週30時間以上の労働者 |
|---|---|
| 0.5年(6か月) | 10日 |
| 1.5年 | 11日 |
| 2.5年 | 12日 |
| 3.5年 | 14日 |
| 4.5年 | 16日 |
| 5.5年 | 18日 |
| 6.5年以上 | 20日 |
一方、比例付与の対象となる短時間労働者(週4日以下かつ週30時間未満)については、週の所定労働日数・年間所定労働日数ごとに、別途法定の付与日数表が定められています。 たとえば、週3日(年間所定労働日数121~168日)の労働者の場合、法定付与日数は次のようになります(出勤率8割以上の場合)。
| 継続勤務年数 | 週3日(比例付与の例) |
|---|---|
| 0.5年(6か月) | 5日 |
| 1.5年 | 6日 |
| 2.5年 | 6日 |
| 3.5年 | 8日 |
| 4.5年 | 9日 |
| 5.5年 | 10日 |
| 6.5年以上 | 11日 |
参考:厚生労働省リーフレット「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」(通常の労働者・比例付与の対象者の付与日数表)
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-3.pdf
付与日数を誤りやすい典型パターン
シミュレーターの結果と、自社の就業規則・人事システムの付与日数を照合すると、次のような誤りが見つかることがよくあります。
- 週5日勤務かつ週30時間以上勤務しているパートを、「パートだから」と比例付与として扱っている
- 週4日勤務だが、週の所定労働時間が30時間以上ある労働者に対して、比例付与の表を用いてしまっている
- 週の所定労働日数が固定されていないシフト制パートについて、直近の勤務実績ではなく、便宜的な「名目上の日数」で判定している
- 試用期間を「勤続年数から除外」してしまい、6か月経過時点での初回付与が遅れている
- 勤続年数を、正社員登用日や契約更新日から数え直してしまい、通算勤続年数が正しく反映されていない
パート・アルバイトから正社員に転換した場合などでも、すでに付与された有給休暇の日数を減らしたり取り消したりすることはできません。 付与日(基準日)時点の所定労働日数・時間に応じて付与日数を決め、その後に労働条件が変わった場合でも、次の基準日までは付与済みの残日数をそのまま管理することになります。
参考:厚生労働省「有期・パートタイム労働者にも年次有給休暇が付与されます」など
自社ルールと法定日数のズレを中間点でチェック
ここまでご覧いただき、「一部の区分だけ不安がある」「システム任せで細部を確認していない」と感じられた場合は、 典型的な勤務パターンごとに一度シミュレーションしておくと安心です。
※ 雇用形態が変わった場合やシフト勤務者の扱いなど、個別事情により判断が異なる場合があります。必要に応じて、所轄労働基準監督署公表資料等もあわせてご確認ください。
出勤率8割の判定と、付与ゼロになるケース
有給休暇の付与日数を判断する前提として、「出勤率8割以上」という要件があります。 出勤率は、次のように計算します。
出勤率 = 出勤日数 ÷ 全労働日数 × 100(%)
ここでいう「全労働日」とは、労働契約上、労働義務のある日を指します。年次有給休暇を取得した日は出勤したものとして扱い、産前産後休業・育児休業・介護休業・業務災害による療養休業なども、出勤したものとして出勤日数に算入します。一方、会社都合の休業日は全労働日から除外します。
基準日時点で出勤率が8割に満たない場合、その年度については法定上、有給休暇を付与しない取扱いも認められています。この場合、「後から8割に達したのでさかのぼって付与する」義務まではありませんが、翌年度の基準日に再度出勤率を判定し、要件を満たしていれば、その時点の勤続年数に応じた法定日数を付与する必要があります。
参考:厚生労働省「年次有給休暇のあらまし(出勤率の考え方)」
https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf
有給休暇の権利があるのは誰か
有給休暇は、労働基準法上の「労働者」であれば、雇用形態にかかわらず適用されます。具体的には、次のような方々が対象です。
- 正社員・無期雇用社員
- 契約社員・嘱託社員などの有期雇用労働者
- パートタイマー・アルバイト
- 派遣労働者(付与・管理は派遣元事業主が行う)
- 管理監督者(管理職であっても労働者であるため対象)
一方、会社法上の役員(取締役など)は、原則として労働基準法上の「労働者」には該当しません。ただし、いわゆる兼務役員として、実態として労働者としての業務に従事している場合には、その部分について有給休暇の権利が生じる余地があります。
参考:厚生労働省「年次有給休暇のあらまし」「有期・パートタイム労働者の年次有給休暇Q&A」等
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/hatarakikata/index.html
年5日の時季指定義務と管理簿作成義務
2019年4月の法改正により、年次有給休暇の付与日数が年10日以上の労働者については、使用者はそのうち少なくとも5日を、基準日から1年以内に確実に取得させる義務があります(年5日の時季指定義務)。
この義務を履行するため、企業は次のような対応が求められます。
- 各労働者ごとに、有給休暇の付与日・付与日数・取得状況を把握する
- 労働者自らの取得が5日に満たない場合、時季指定により取得させる
- 年次有給休暇管理簿を作成し、一定期間保存する
年次有給休暇管理簿には、少なくとも「基準日」「付与日数」「取得日(時季)」「取得日数」等を記録する必要があります。紙でも電子データでも差し支えありませんが、労働基準監督署の調査などに備え、必要なときに出力できる状態にしておくことが求められます。
参考:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得」「年次有給休暇管理簿の様式例」
https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf
有給休暇の有効期限と付与日数の「見せ方」
有給休暇には、付与日から2年間という時効があり、その期間を過ぎると未消化分は消滅します。 付与日数が法定以上であっても、有効期限の管理が曖昧な場合、従業員が十分に消化できないまま大量に失効してしまい、職場の不満につながることもあります。
実務上は、就業規則や社内ルールで「古い年度分から優先的に消化する」などの整理を行い、勤怠システムやマイページなどで、従業員本人にも「付与日数」「残日数」「いつまでに取得すべきか」を見える化しておくと、計画的な取得につながります。
画像③:有給休暇の付与日数と残日数の管理イメージ
よくある質問(FAQ)
-
Q. パートやアルバイトにも、必ず有給休暇を付与しなければなりませんか?
A. はい。雇用形態にかかわらず、労働基準法上の「労働者」であれば、6か月継続勤務かつ出勤率8割以上の要件を満たした時点で、有給休暇を付与する必要があります。週の所定労働日数・時間によって日数は比例付与されますが、「パートだから有給なし」とすることはできません。 -
Q. 付与日数を法定日数より少なくすることはできますか?
A. できません。付与日数は、勤続年数と所定労働日数・時間に応じて、労働基準法および関連通達で定められた最低基準を下回ることはできません。会社の裁量で減らせるのは、法定を超える「上乗せ分」のみです。 -
Q. 出勤率8割に満たなかった場合、後から8割を超えたタイミングでさかのぼって付与する必要はありますか?
A. ありません。基準日時点で出勤率が8割未満の場合、その年度については付与しなくても差し支えないとされています。翌年度の基準日にあらためて出勤率を判定し、要件を満たしていれば、その時点の勤続年数に応じた日数を付与します。 -
Q. 有給休暇取得中の賃金は、どのように計算すればよいですか?
A. 労働基準法では、「通常の賃金」「平均賃金」「健康保険法上の標準報酬日額に相当する額」のいずれかの方法による支払いが認められています。実務上は、その日を出勤した場合と同じ「通常の賃金」で支払う方法が多く用いられますが、どの方法を採用するかは就業規則等で明確に定めておく必要があります。 -
Q. シミュレーター結果よりも社内の付与日数が少ない場合、どう考えればよいですか?
A. シミュレーターは法定の最低付与日数を前提に計算していますので、その結果が自社の付与日数を上回る場合には、就業規則・雇用契約・実際の所定労働日数・時間・出勤率などを再確認し、法定日数を下回っていないか点検する必要があります。
シミュレーターで、自社の付与日数を点検してみませんか
有給休暇の付与日数は、「おおよそ」ではなく、法令に基づいた明確な根拠をもって説明できることが望まれます。 まずは、典型的な勤務パターン(フルタイム・短時間勤務・シフト制パートなど)について、シミュレーターで法定日数を試算し、自社の運用とのギャップを確認してみてください。
気になる相違が見つかった場合は、就業規則や人事システムの設定、勤怠管理の前提条件(所定労働日数・年間所定労働日数の考え方など)を整理し、必要に応じて見直しを検討していくことが重要です。
あわせて、厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」では、有給休暇の取得促進に向けた企業事例・各種資料が公開されています。
https://work-holiday.mhlw.go.jp/
監修:植本労務管理事務所(社会保険労務士)
※ 本記事は日本の労働基準法等に基づく一般的な制度解説であり、最終的な取扱いは就業規則・個別の労働条件・所轄労働基準監督署等の判断により異なる場合があります。
コメント