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失業手当はいくらもらえるのか?給付額の計算方法と簡単シミュレーターの使い方
植本労務管理事務所 監修(社会保険労務士)
「失業手当(基本手当)はいくらもらえるのか」というご質問は、退職予定者・退職済みの従業員から非常に多く寄せられます。もっとも、失業手当は単に「金額」だけでなく、そもそも受給できるかどうかという受給要件、いつからいつまで受給できるかという受給期間、離職理由による給付制限の有無など、制度全体を押さえておくことが重要です。
本記事では、(1)基本手当の受給資格と失業の状態、(2)賃金日額・基本手当日額・所定給付日数の計算方法、(3)会社都合・自己都合による違いと給付制限、(4)就職困難者・再就職手当など関連給付との関係、(5)当事務所の簡単シミュレーターの使い方、という流れで整理します。企業の人事労務担当者が従業員に説明する際のベース情報としてご活用いただける内容です。
・受給には「失業の状態」と「一定の被保険者期間」の両方が必要。
・金額は「賃金日額 × 給付率(45〜80%)」「所定給付日数」で決まるが、年齢別の上限・下限がある。
・自己都合か会社都合かで、必要な加入期間・給付制限・所定給付日数が変わる。
・具体的な給付額はハローワーク決定が最終だが、シミュレーターで概算を把握しておくと生活設計に有用。
1)基本手当の受給資格と「失業の状態」
(1)受給要件の2本柱
雇用保険の基本手当(失業手当)を受けるには、概ね次の2つを満たしている必要があります。
- 失業の状態であること
・積極的に就職しようとする意思があること
・いつでも就職できる能力(健康状態・家庭状況など)があること
・積極的に求職活動を行っているにもかかわらず職に就いていないこと
以上をすべて満たしている場合を「失業の状態」といいます。家事専念、昼間学生、自営に専念している場合などは、原則として失業の状態とは認められません。 - 一定の被保険者期間があること
通常は「離職前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が通算12か月以上」必要です。倒産・解雇等の会社都合や、やむを得ない理由による離職の場合は、「離職前1年間に6か月以上」で足りる特例があります。
被保険者期間のカウントにあたっては、疾病・負傷・出産・育児などにより賃金の支払いを受けられなかった日数を加算する特例もあり、加算後の期間が4年を超える場合は4年が上限となります。
なお、退職時点で65歳以上の方は「高年齢求職者給付金(原則一時金)」の対象となり、本記事で扱う「基本手当」とは別制度になります。
(2)失業状態に該当しない代表例
次のようなケースは、原則として「失業の状態」に当たらないとされます(代表例)。
- 家事に専念する方
- 昼間学生等、学業に専念している方
- 自営業を開始、又は自営準備に専念している方
- 次の就職がすでに決まっている方
- 雇用保険の被保険者とならない短時間就労のみを希望する方
- 会社の役員等に就任している方(実態によっては要確認)
- 病気・けがなどによりすぐに働くことができない方(受給期間延長・傷病手当の対象となることがあります)
(3)失業中に働いた場合の取扱い
失業手当の受給中に働いた場合、「雇用保険の被保険者となるレベルの就労」に当たるかどうかが重要です。
- 週の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある就労
→「就職」とみなされ、その期間は基本手当の支給対象外となります。 - それに満たない短時間のアルバイト・パート等
→働いた日は必ず失業認定申告書に記載する必要があり、収入額により減額や不支給となる場合があります。
働いた事実や収入を申告しないと「不正受給」と判断され、3倍返しの返還命令や刑事罰の対象となり得ますので、事業主側としても従業員への注意喚起が重要です。
2)離職理由による区分(一般/特定受給資格者/特定理由離職者)
(1)3つの受給資格区分
離職理由により、次の3つの区分に分かれ、必要な被保険者期間や所定給付日数、給付制限の有無が変わります。
- 一般受給資格者
転職などの自己都合退職、定年退職、契約期間満了(特定受給資格者・特定理由離職者に該当しないもの)など。 - 特定受給資格者
倒産、解雇、人員整理に伴う退職勧奨、雇止め(一定要件を満たすもの)など、再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされたケースに該当する可能性があります。 - 特定理由離職者
一般の有期契約の更新打切り(特定受給資格者に該当しないもの)、やむを得ない自己都合(妊娠・出産・育児・介護・通勤困難・家族事情の急変 等)による離職など。
特定受給資格者・特定理由離職者に該当すると、(1)必要な被保険者期間が「離職前1年間に6か月以上」で足りる、(2)所定給付日数が長くなる場合がある、というメリットがあります。該当性の判断は個別の事情に基づきハローワークが行うため、会社としては事実に即した離職理由を離職票に記載することが重要です。
(2)給付制限(自己都合退職等の場合)
自己都合退職など「正当な理由のない自己都合」による離職の場合、受給資格決定後に7日の待期期間を経過しても、さらに一定期間は基本手当が支給されない「給付制限」があります。
- 退職日が令和7年4月1日以降:原則1か月
- 過去5年以内に正当な理由のない自己都合退職により2回以上受給資格決定を受けた場合や、重責解雇に近いケース等:3か月の給付制限
倒産・解雇などの特定受給資格者や、一部の特定理由離職者は、原則として給付制限はかかりません(待期7日は共通)。
3)金額の核になる「賃金日額」と「基本手当日額」
(1)賃金日額の算定方法
失業手当の金額の基礎となるのが賃金日額です。算定方法は次の通りです。
ここでいう「毎月決まって支払われた賃金」には、基本給のほか、通勤手当・時間外手当などが含まれるのが一般的ですが、賞与や退職金は含まれません。実務上は、会社が作成する離職票に基づき、ハローワークが最終的な金額を算出します。
(2)基本手当日額と給付率
基本手当日額は、原則として賃金日額に給付率(約45〜80%)を乗じて求めます。
※離職時の年齢・賃金水準により給付率が段階的に変動
賃金が低いほど給付率が高く、一定水準を超えると給付率が下がる仕組みです。さらに、年齢別に賃金日額・基本手当日額の上限・下限が定められており、高年収の場合は上限額で頭打ちになります。
(3)基本手当日額の上限・下限(令和7年8月1日以降の一例)
令和7年8月1日以降に適用される予定の上限額の一例は次の通りです(毎年8月1日に改定されるため、実務では最新の厚生労働省資料をご確認ください)。
| 離職時の年齢 | 賃金日額の上限額 | 基本手当日額の上限額 |
|---|---|---|
| 29歳以下 | 14,510円 | 7,255円 |
| 30~44歳 | 16,110円 | 8,055円 |
| 45~59歳 | 17,740円 | 8,870円 |
| 60~64歳 | 16,940円 | 7,623円 |
また、全年齢共通の下限額として、賃金日額3,014円・基本手当日額2,411円といった水準も設けられています。実際に適用される額は毎年見直されるため、「令和7年8月1日現在の情報」であることを社内掲示等では明示しておくのが安全です。
4)所定給付日数(何日分もらえるか)
(1)所定給付日数の決まり方
失業手当を受給できる最大日数を「所定給付日数」といいます。これは次の3要素で決まります。
- 離職時の年齢
- 雇用保険の被保険者期間(加入年数)
- 離職理由(一般/特定受給資格者/特定理由離職者/就職困難者など)
一般的な自己都合退職(一般受給資格者)の場合のおおまかな日数イメージは次の通りです(全年齢共通)。
| 被保険者期間 | 所定給付日数(自己都合の例) |
|---|---|
| 1年未満 | 90日 |
| 1年以上10年未満 | 90日 |
| 10年以上20年未満 | 120日 |
| 20年以上 | 150日 |
一方、倒産・解雇等の特定受給資格者や、一部の特定理由離職者は、同じ加入年数でも所定給付日数が長くなります。
| ケース | 所定給付日数(例) |
|---|---|
| 自己都合(加入10年未満) | 90日 |
| 自己都合(加入10年以上20年未満) | 120日 |
| 会社都合(例:30〜34歳・加入10年以上20年未満) | 210日(例) |
さらに、障害や疾病等により「就職困難者」に該当すると認定された場合、45歳未満で300日、45歳以上65歳未満で360日と、一般より大幅に長い日数が設定されることがあります(加入期間1年以上等の要件あり)。
(2)受給期間(1年)との違いに注意
混同しやすいのが、受給期間(原則1年)と所定給付日数です。
- 受給期間:離職日の翌日から原則1年間。この期間内に基本手当の支給を受ける必要がある。
- 所定給付日数:この1年の中で受給できる「最大日数」。
病気・妊娠・出産・育児など、やむを得ない理由で30日以上働けない期間が続く場合は、申請により受給期間を最大3年まで延長することができます。ただし、延長できるのは「期間」のみであり、「所定給付日数自体が増える」わけではありません。この点は、従業員への説明時にも誤解が生じやすいところです。
5)具体的な計算例
次のようなケースで概算を見てみます。
例:30歳・退職前6か月の賃金合計1,080,000円・被保険者期間9年・自己都合退職
- 賃金日額=1,080,000円 ÷ 180日 = 6,000円
- 給付率を60%と仮定すると、基本手当日額=6,000円 × 0.6 = 3,600円
※実際には賃金水準に応じて給付率が変動し、上限・下限額との比較も行われます。 - 所定給付日数(自己都合・加入10年未満)=90日
⇒ 概算の受給総額=3,600円 × 90日 = 324,000円
このように、おおよその水準感を従業員と共有する際には役立ちますが、実務上は「11日以上の月のカウント」「賞与の扱い」「複数の離職票の通算」等のルールがあり、最終的な金額は必ずハローワーク決定額を基準としていただく必要があります。
なお、厚生労働省が公表している「月額ベースのおおよその目安」(令和7年8月1日以降の一例)は、次のような水準です。
- 平均月額15万円程度 ⇒ 支給額 月額約11万円程度
- 平均月額20万円程度 ⇒ 支給額 月額約13.5万円程度
- 平均月額30万円程度 ⇒ 支給額 月額約16.5万円程度(60~64歳はやや低くなる)
6)再就職手当・就業促進定着手当との関係
(1)再就職手当の概要
受給期間中に早期に安定した職に就いた場合、一定の要件を満たせば再就職手当が支給されます。イメージとしては、「残っている基本手当日数分の一部を前倒しでまとめて受け取る」給付です。
支給率は、就職時点での支給残日数が所定給付日数の何割残っているかで変わります(2/3以上残っていれば70%、1/3以上2/3未満なら60%など)。
主な支給要件は、次のようなものです。
- 待期満了後の就職または事業開始であること
- 就職日の前日までに失業の認定を受けており、支給残日数が所定給付日数の1/3以上あること
- 離職前の事業主(関連会社を含む)へ再就職したものでないこと
- 原則として1年以上の雇用見込みがあり、雇用保険の被保険者となること
- 過去3年以内に再就職手当等の支給を受けていないこと など
(2)就業促進定着手当
再就職手当を受給した方が、再就職先で6か月以上継続勤務したものの、賃金が離職前より下回る場合には、一定の要件のもとで就業促進定着手当が支給されることがあります。賃金の差額を埋める性格の給付であり、計算式には「離職前の賃金日額」「再就職後6か月間の賃金の1日分」「支給残日数」などが用いられます。
7)受給手続きの全体像
従業員からの相談対応の場面では、金額だけでなく手続きの流れを説明できると親切です。基本的な流れは次の通りです。
- 離職
退職後、会社から離職票(1・2)が発行されます。 - 求職申込と受給資格の決定
本人が、離職票・マイナンバー確認書類・身元確認書類・写真・通帳等を持参し、住所地を管轄するハローワークで求職申込と受給手続を行います。 - 雇用保険説明会
受給資格者証や失業認定申告書が交付され、受給ルールや求職活動の方法について説明を受けます。 - 待期満了(7日間)
受給資格決定日から通算7日間は「待期期間」とされ、この期間は基本手当は支給されません。 - 給付制限(自己都合等の場合)
自己都合退職等の場合、待期満了日の翌日から原則1か月(条件により3か月)は基本手当が支給されません。 - 失業の認定
原則4週間に1回の認定日にハローワークへ出頭し、求職活動実績や就労状況を申告します。 - 基本手当の支払い
認定を受けた日数分の基本手当が、通常1週間前後で指定口座に振り込まれます。
2回目以降の認定は、60歳以上・基礎疾患がある・妊娠中など一定の場合に限り郵送手続が認められていますが、初回手続は原則として来所が必要です。
8)当事務所の失業手当シミュレーターの使い方
以上のように、実際の給付額は多数の要素で変動するため、手計算だけで正確に把握することは困難です。そこで、当事務所では主要な条件を入力するだけで概算を算出できる失業手当シミュレーターをご提供しています。
主な入力項目の例
- 離職時の年齢
- 雇用保険の被保険者であった期間(年数・月数)
- 退職前6か月の賃金(各月の総支給額)
- 離職理由(自己都合/会社都合)
- ハローワーク初回訪問日(求職申込予定日)
これらを入力すると、賃金日額、基本手当日額、所定給付日数、給付制限の有無、支給開始時期、概算受給総額、再就職手当の目安などを一括で確認できます。実際のハローワーク決定額とは多少の誤差が生じますが、従業員の生活設計や退職時期の検討材料としては十分な精度となるよう設計しています。
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9)不正受給と事業主の責任
最後に、企業側として特に注意しておきたい点です。
- 働いた事実や収入を申告しない、自営開始や自営準備を隠すなどの行為は、不正受給と判断されれば、支給停止・3倍返しの返還命令・刑事罰の対象となり得ます。
- 離職票の離職理由について、事実と異なる記載(本来は自己都合であるところを会社都合とする等)をすることも不正行為に該当します。事業主が虚偽記載を行った場合、不正受給者と連帯して返還・納付命令の対象となり、詐欺罪等で処罰される可能性もあります。
- 一定割合以上の特定受給資格者を発生させた事業所については、雇入れ関係助成金の支給制限がかかる場合があり、離職理由の適正な管理は経営面にも影響します。
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